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Prologue 陵辱
蒼穹の空と同じ色をした蒼き海が交差した地点に真白い波が立っていた。
真白い波は英国はサウサンプトン港より長い航海を経てやっと新大陸アメリカの東方マイアミの海域までやってきた輸送船ドルオーラ号の腹を容赦なく叩き続けたが、彼女は一切怯むことなく西へ西へと進み続けた。
地母神ガイアを思わせる巨大な船体を湿った霧が包み込む。視界は最悪ながら全開帆の風に乗っているために彼女の進行は止まらない。
船尾楼にて舵を握る船長もこんな霧の中で立ち往生をしたくない故、あえて全開帆最大船速にて風に乗り霧の脱出を考えているのであった。
天を貫き通すかのように高く聳えるメインマスト頂上にて周囲を見回す一等航海士からは何の信号も届かない、霧の中を安全に進めていることを信じて船長は操舵輪をゆっくりゆっくりとクイクイと動かしながら進行方向の微調整のために握る。
「空も海も蒼いのに、霧に包まれるとは…… なんと珍妙な」
船長はこう呟いて一旦、舵から手を離し一等航海士から何か信号はないかと空を眺める。霧に包まれて僅かな光しか見えない太陽がドルオーラ号を照らし出す。
船尾楼にある扉は貨物室へと続いていた。貨物室には輸送品がぎっしりと詰め込まれている。ラム酒や砂糖や煙草のような嗜好品に始まり、木材や鉄鉱石や火薬のような資材、メインは眩く輝く金貨。その貨物室には長い廊下があり、その廊下を下った先には輸送船団員達の塒があった。ベテランの船員には比較的眠りやすいベッドが与えられ、下っ端の船員には天井スレスレに届くようなハンモックが与えられる。
その塒に一人の男が足を踏み入れた。この男こそ、英国貴族ツカイ・ステー。今回の輸送船団の団長である。船が霧に包まれたことを団長室の窓から見たために心配になり、輸送船団員に状況確認をするために塒に訪れたのだった。
「君たち、船が霧に包まれているようだが大丈夫かね」
一人の船員がハンモックから飛び降り、ツカイ・ステーに状況を報告する。
ちなみに、このツカイ・ステーは輸送船団の団長ではあるが「お飾り」である。新大陸アメリカの開拓(マイアミ総督就任)の辞令を英国女王から承ったために、マイアミ行きの輸送船団に便乗しているだけだった。搭乗の際に「私は船のことはわからんから一任する」と、輸送船団員達には報告済みである。
「はっ。舵を担当する船長始め、一等航海士、二等航海士、三等航海士をマストに配置、他、船員15名を甲板に配備。現在は滞りなく航海中です」
「そうか。安全ということだな」
ツカイ・ステーは安心し、団長室へと戻る。団長室には彼の妻と子がいた。
妻の名はポイ・ステー。ツカイ・ステーを公私共に支える同い年の同郷の妻である。
今回の新大陸開拓担当の任に難色を示したが、夫への愛故に新大陸でも夫を支えようと誓い、只今、開拓に関して勉強中である。
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