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「錨射出!」
すぐさまに錨担当の船員より返事が返ってくる。
「大砲で穴一つ空かない相手です! 錨を当てても弾かれます! 皮膚が硬すぎます!」
ギリシャの火と大砲の直撃でもほぼノーダメージ。この時点でドラゴンの鱗の硬さがよく分かる。こんな常識外れの相手にどう戦えと言うんだ。ティガは伝声管に向かって半ばやけっぱちに叫ぶ。
「狙うのは腹じゃない! 薄い翼膜だ! 錨の射出角度を広めに頼む!」
そもそも錨は射出しても一直線にしか飛ばないし、クランクハンドルを使って下ろす時も下にしか落ちない。あの若船長さん、無茶を仰る。だが、その無茶を叶えるのが我々船員根性見せましょう!
錨担当の船員はクランクハンドルを巻き上げる時以上の怪力で並行の形となっている錨を鎖ごと広げるように押し込み角度を変えて扇状に広げた。
「いけぇええええーっ!」
扇状に錨が射出された。射出された錨はハルモニア・ザ・オーシャンの両翼の翼膜を突き破る。薄い翼膜の中に赤々と見える血管、錨は血管を突き破る。破れた翼膜より夥しい血飛沫が乱れ舞う。
これには流石にダメージがあったかハルモニア・ザ・オーシャンはこれまで聞いたこともない断末魔の悲鳴を上げた。ここで攻撃をやめるわけにはいかない。ティガは面舵いっぱいに操舵輪を回しながら追撃の指示を出した。
「ギリシャの火と左舷側砲で総攻撃! 総攻撃完了後! 船首砲! 錨を引き寄せて最接近! 止めは衝角を腹に突っ込め!」
面舵いっぱいの円の動きをする間にもギリシヤの火で焼かれながら側砲全弾の直撃を食らうハルモニア・ザ・オーシャン。
総攻撃が終わると同時に操舵輪は取舵一杯に回されニュートラルに戻る。その瞬間に自由号は全開帆 の風に乗りハルモニア・ザ・オーシャンに向かって突撃する形となる。そこに与えられるは船首砲の無慈悲な一撃、硬い鱗を突き破れはしないものの当たった場所を凹ませる。更に断末魔の悲鳴が響き渡る。内部のどこかの骨でも砕いたのだろうかダメージはある様子だ。
更に艦首砲が当たった場所に牙のようなアダマスの衝角の刃が突き刺さる。衝角がハルモニア・ザ・オーシャンの血に染まる…… 断末魔の悲鳴も弱々しいものとなっていく…… 鏡のような湖面が赤く染まっていく……
これで仕留めたか? と、ティガが安堵した瞬間に錨担当の船員が伝声管の向こうでけたたましく叫ぶ。
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