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「あの龍、生きてます! 錨が引きずられて行きます!」
自由号が船首楼から沈んでいく、このままでは引きずられて船ごとお陀仏。
このまま虫の息の龍と一緒に心中なんてゴメンだ。ティガは一瞬でこの状況を打破する方法を閃いた。
「錨を破棄!」
こんなことをすれば自由号は停泊出来なくなってしまう。
今は後先を考えるよりも今生きる方法を考えなければいけない場面。
錨担当の船員はその指示に従い錨射出用の火薬の補充に使う火薬樽を錨巻取りドラム二つの間に置く。少し距離をとって火薬樽に向かってフリントロックピストルを放つ。
船尾楼より激しい爆発音が聞こえる。それから間もなくに沈みかけていた船尾楼が浮かび上がった。錨担当の船員がティガに直接報告をするために走ってくる。
「船長! 錨の破棄、完了です!」
「ありがとう」
場が静まり返る。しばしの沈黙の後、ハルモニア・ザ・オーシャンが沈んだ湖面を確認していたアンティコネが高らかに叫ぶ。
「目標! 反応ありません! 完全に沈黙! 撃破完了! 撃破完了です!」
最強の龍を相手にした海戦の勝利に自由号の船員は皆、喜び合う。まずは皆被っている帽子を天に向かって投げ捨てた。ある者はお互いの検討を称え合い、ある者は抱き合い、ある者はお互いに目を泣き腫らした。
さて、後は目の前にある宝を積み込んで帰るだけだ。いや、一旦マイアミの港町にお宝を輸送した方がいいだろう。しかし、現状では錨がないから停泊が出来ない。
どうやって宝を持って帰ろうか、いや、そもそもどうやって停泊しようかを考えていると、ハルモニア・ザ・オーシャンの沈んだ湖面より小さな銀色の泡がブクブクと出てきていることに気がついた。
その刹那、ハルモニア・ザ・オーシャンが湖面より現れた。翼に錨が痛々しく刺さり、衝角で一度貫かれた腹からは夥しいほどの血が流れ出る、内蔵も多少は混じっているだろうか、一度湖底に落ちた衝撃からか角や爪は折れている、全身がボロボロの状態での復活である。
神様と言うものは無慈悲なものだ。無慈悲な戦い方をしてきた自分たちに言えた資格はないが、本当に無慈悲なものだ。あそこまでやったのだから勝たせてくれればいいものを…… 総員、士気を無くし膝や肩を落とし絶望する。ただ一人、ティガだけは最後まで船長の役目を果たそうとハルモニア・ザ・オーシャンに向けてポケットピストルの銃口を向けた。
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