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「恨みはねぇが、お前は私掠船の船長だ。言わば商売仇、お前みたいな強いやつと海戦なんてやりたくねぇしな。殺せるうちに殺すことにしたよ。ま、恨むな」
「母さんを…… 海に沈めた時からずっとアンタのことは恨んでる!」
ティガはポケットピストルをアルキオン船長に向かって構えた。アルキオン船長の含み笑いが満面の笑みへと変わる。
「まさか本当に俺の首元に食らいついてくるとはな…… 嬉しいぜェ!」
アルキオン船長は有無を言わさずにティガに向かって銃弾を放った。弾丸はティガの頬を掠めて背後にあるハルモニア・ザ・オーシャンの首、それも口元に当たる。口元より歯が一本、放物線を描いて柔らかい土の地面に刺さる。抜けた歯は柔らかい土の奥へと潜り、人に姿を変えていく、地面から姿を表した時には船長帽子に船長コートを纏い、舶刀を持ったわかりやすいぐらいの海賊姿の男となっていた。
アルキオン船長は何が起こっているかも分からずにティガに後ろを見ることを促す。ティガは警戒しているのか絶対に後ろを見ることなくアルキオン船長を睨み続けている。
「いいから後ろ見ろよ…… 何もしねぇから」
「信用できるか! 海賊は不意打ちがお得意芸だろ!」
後ろの海賊男は舶刀を構える。アルキオン船長はこのままティガを仕留めてくれるなら好都合、そのままにしておくことにした。次の海賊男の行動は意外なものだった。なんと、海賊男は舶刀をアルキオン船長に向かって投げたのである。
舶刀はアルキオン船長の肩に刺さった。アルキオン船長は断末魔の悲鳴を上げながらその場に転がりのたうち回る。ティガはやっと自分の後ろにいる海賊男の存在に気がついたのだった。
「あ、あなたは一体……」
「チッ、口で説明するのが面倒くさいな。実際にやらせた方が早い。お前、あの龍の口から歯ぁ引っこ抜いてこの辺りに投げてみろ」
何をギリシャ神話のカドモス王のようなことをやらせるのだろうか。ティガは不審に思いつつもその言葉に従った。片刃厚剣でハルモニア・ザ・オーシャンの歯を切り落とし、そして適当な場所に切り落とした歯を投げ捨てた。すると、歯は瞬く間に海賊の姿をしたものとなってしまった。
今度は黒い髭を蓄えた海賊スタイルの中年男性、胸を大きく開けた海賊スタイルの見目の麗しい女、筋骨隆々といた海賊スタイルの若々しい男が土の中より生まれる。
「見ての通り、俺たちは『龍の口より生まれしもの』人間じゃねぇ。別の生き物だ。龍が姿を変えた名前の無い何かって言ったほうが良いかも知れねぇ」
「いきなりこんなこと言われても…… それにどうして海賊の格好を」
「昔は野蛮な兵士の格好だったらしいぜ? 今じゃあ忌み嫌われる海賊って姿で生まれるらしいがな」
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