第六章 喪失

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第六章 喪失

キングストン。ハバナを擁するキューバ島の南東に位置するジャマイカ島にあるカリブ海の都市である。その都市の南にはいくつもの名もなき島がある。この中で一際大きく、自然豊かな島があった。誰が名付けたかは知らないが、海賊たちの間でこの島はルドン島と呼ばれていた。 さて、このルドン島では今現在二人の男が海賊に置き去りにされていた。 透き通るような綺麗な水の入り江、ティガはそこで今日の獲物を探していた。海岸に打ち上がる海鼠を手づかみにし、ぽいぽいと砂浜に投げ捨てる。投げ捨てられた海鼠はヤタガンでスライスされて今日食べる分と保存食分に分けられる。 入り江の奥にはジャングルへと続く道がある。その道の奥からガリソードが大蛇を握りしめて歩いてくる。その大蛇、首は既に無い。 「デカイ蛇ですね」 「仕留めるのに苦労したよ。巻き付かれて骨がミシミシ言う中、覚悟決めて舶刀(カットラス)振り下ろしてなかったら今ごろこいつの腹ン中で溶かされていたよ。で、お前は今日も海鼠しか漁獲(とれ)なかったのか?」 「水の中じゃヤタガン振り回せないんだから仕方ないじゃないですか。青い魚や緑の魚は動きが素早くて、銛とか欲しいです」 「あまえんな。とりあえず焼くぞ」 「火薬だって限りあるんですからね。失敗しないでくださいよ」 「わかったわかった」 二人はこのような生活を三ヶ月続けていた。主食は比較的楽に漁獲(とれ)る海鼠に小魚、運が良ければ名前も分からない極彩色の魚、気まぐれで浅瀬まで上がってきたウツボが漁獲(とれ)た時二人は大歓喜に震えたのだが、骨の多さに耐えかね大半を捨ててしまった。沢蟹を食べるのも当初は身だけだったが、身だけでは足りないと言うことで殻まで歯でガリガリと砕いて食べるようになっている。 後はジャングルの木の実、蛇、ネズミ、うさぎ、鳥…… ぐらいだろうか。川魚に黒い蛇のようなニュルっとした奴がいたので喜び勇んで捕獲(とり)に川に足を踏み入れた瞬間に全身が痺れて動けなくなってしまった。それ以降、川にいる黒いやつとは関わり合いを持たないことに二人は決めたのだった。ゼウスの雷霆を体に宿す生物とは二人は夢にも思わないだろう(デンキウナギ)この島には狼もいるが「戦いを挑むのはヤバい」として見つけても息を潜めて隠れるだけである。一番最悪なのがジャガー、うさぎや鳥を仕留めることに成功しても木の上から実態もなくスルリと飛び降りて獲物を横取りする。二人はそれを指を加えて見つめることしか出来ない。取り返そうと戦いを挑めば「死」は間違いないのだから…… 食に関しては海の生き物とジャングルの生き物をローテーションする形でなんとか食べ繋いでいる。始めに渡された木箱に入っていた僅かばかりの食料はもうない。今にして思えばあの時食べた黒パンが一番美味しかったと言うのが二人の共通認識である。 火薬があれば火打ち石を経由して火を起こすことが出来る。しかし、木箱に入っていた分と二人のフリントロックピストルに使う分を足してもはそう多くない。火薬は節約して使うことにした。火を通してものを食べるのは一週間に一度を二人で取り決めをした。そのおかげか火薬の消費は激しくない。取り決めの最後に「万が一の自殺のために一発分の玉と火薬は残しておこう」と約束したためにフリントロックピストル一発のみの火薬は別に保管していある。 衣類であるが、三ヶ月同じものを着続けている。ガリソードはこの島の先住者の服を引っ剥がすことも考えたが「死者を辱めるのはやめておこう」として、そのまま服を着たままでジャングルの中の柔らかい土の場所に死体を埋葬するのであった。いずれも置き去りにされた所属不明の海賊達である。 服を絞っては乾かしてを繰り返しているためにボロ布を着ているようなものである。 住処に関しては最悪としか言いようがない。 岩壁に洞窟でもあればそこに居を構えるのだが、無い。岩を掘ろうとも考えたが現状では掘るような道具がない。 仕方なくヤシの木の葉をテント状に組み立てて中央の大黒柱で支えるという、何とも原始的な家に身を寄せるしかない。 娯楽に関してはもう論外、舟歌を歌う気力もない。箱の中に食料と共にトランプが入っていたのだが、運悪く水が染み込んだせいで遊戯に使用出来なくなってしまった。 出来ることと言えば海水で萎びた絵札の王・女王・従者の人物の薀蓄をティガがガリソードに説明するぐらいである。
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