理想の彼氏、買いました。

1/4
前へ
/4ページ
次へ

理想の彼氏、買いました。

 理想の彼氏ロボット――彼はそういう名前であるらしい。私はとりあえず“彼氏クン”と呼ぶことにした。正式な名前は、後でじっくり考えてから決めても問題ないからである。  独り身一人暮らし、淋しい女の家にやってきた彼は、まさに私の“理想のイケメン”の姿をしていた。身長170cmある私よりさらに15cm身長が高くて。ちょっとだけ髪色が明るめで、瞳の色は青。ほんの少し年下の、可愛い顔立ちの男の子である。どこからどう見ても人間にしか見えない――これが本当にロボットなんて、今の技術はどれほど進歩しているのだろう。 「あ、あの、彼氏クン、ね?」  私がネットオークションで見つけて購入した彼は。私の脳波を読み取って、理想の彼氏としての外見や声を再現し、一番理想とする行動をしてくれるようにインプットされているのだそうだ。  オークションでのキャッチコピーはこうだった。――きゅんきゅんするTLや夢小説を現実にしてみませんか?貴女だけを甘やかしてくれて、愛してくれる最高の彼氏ロボットです!  嘘ではなかった。現に彼は、私が少女時代に大好きだった漫画のヒーローと、そっくりな姿になって目の前に存在しているのだから。 「私と、デートしてほしいんだけど、そういうのはダメ、か、な?」  人と話す時、すぐ声が小さくなってしまう。緊張してどもり、声が聞き取りづらいと叱られる事も少なくない私。おまけに、太っていて不細工ときている。現実の彼氏など、出来る見込みもない。そんな私にとって、彼は救世主以外の何者でもなかった。 「俺でいいなら、喜んで。君を喜ばせるデートコースを、一生懸命考えるね!」  心などないはずの彼氏クンはそう笑って、私が一番欲しい言葉をくれる。そう、私は今、“デートしてほしい”けれど“下手に希望を聞かれるのが怖いし、エスコートしてくれないと何も決められない”と思っていた。そういう私の思考を読み取って、彼は“自分が決めるから問題ない”と言ってくれたのである。  明日は晴天。デート日和だ。最高の彼氏を、道行く人に見せつけてやる絶好のチャンスである。例えそれが、私の理想を投影しただけのアンドロイドであるとしてもだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加