11人が本棚に入れています
本棚に追加
***
優しくて、いつも私だけを見ていてくれて、他の男のことを言うときちんと嫉妬してくれる人。
「もう、俺と一緒にいるときは、他の男の話なんかしないで?アイドルだったとしても嫌なんだ。男である以上、みんな俺のライバルなんだから」
そして、私が全く気を遣うとか、空気を読むということができなくても。そういうものを全く気にしないで、むしろどんどん話題を提供してくれる人。
「美味しいと、ついつい黙っちゃうよね。俺もだよ。どんどん食べて。君と一緒なら、沈黙も幸せなんだ」
私が言うことを、何一つ否定しないで、全部褒めてくれる人。私が“この人は酷い、私は悪くない”と言えば必ず全肯定してくれる人。
「そうだね、山村さんは酷いね。だって、百合はいつも一生懸命頑張っているもの。その頑張りを全然見ないで、納期が遅れたことだけ責めるのは変だよね。そもそも遅れてしまったのは、山村さんが細かいことを横からネチネチ言ってきたからであって、悪いのは山村さんだものね」
「そう!そうなの、そうなのよ!私は悪くないの!」
彼氏クン、は理想の彼氏そのもの。私の意に沿わないことは一切しないでくれるのだ。
彼を購入して今日で三日。幸せとは、まさにこういうことを言うのだろう。いくつか禁則事項はあるが(さすがに“人を殺してください”などのお願いは聞けないようにインプットされている)、それにさえ触れなければ彼は人間と何も変わらない。結婚することはできないが、今は事実婚なんて愛の形もある。彼はごはんを食べる必要もない。数日ごとの充電さえ怠らなければ、ほぼ半永久的に人間と同じように動いて私を愛してくれる存在だ。
なんて素晴らしいのだろう、と思う。
少女の頃、散々読みあさった夢小説を思い出していた。どんな漫画のヒーローもライバルも、みんな私を最高のお姫様として崇めてくれるのだ。世界最強の悪役にも勝てない無敵のヒロイン、その世界最高の精鋭部隊のメンバーにも一目置かれるバトルガール、あるいはどんな男も必ず振り向く天下絶世の美少女などなど。夢小説の世界は、私にとって辛い現実から逃げることができ、理想のお姫様になれる最高の舞台であったのだ。
残念ながら、今の私はそれをそのまま楽しめるような年ではなくなってしまったけれど。もう少し、現実的な(都合よくイケメンが職場にいて、絡む機会があって、強引に口説いて貰える世界が本当に現実的かという問題はあるにせよ)TLのライトノベルなどにハマっている現状ではあるけれど。彼氏クンとの日々は、その両方の素敵なところをいっぺんに味わえる最高の“現実”であることに違いはないのだった。
なんせ、あの時は妄想でしか叶わなかったことが、今は現実で叶っているのだから。
――もう、本物の彼氏なんか要らない。彼氏クンだけいればいい!ウン十万円もしたけど、彼氏クンを購入して本当に良かった!
最初のコメントを投稿しよう!