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***
その流れは、必然だっただろう。
彼を購入して一ヶ月ばかりした時。自宅で二人きりの部屋、私は彼にそっと寄り添ってみせたのだ。
「あ、あ、あのね、彼氏クン。私……」
理想の彼氏クンなら。はっきり口に出さなくても、当たり前のように察してくれるのだ。――ドロドロに甘やかす、えっちをしてほしい、なんてことは。そして。
「本当にいいの?」
私をお姫様だっこでベッドに運んでくれた彼は。私の理想通り、急に獣の顔になって言うのだ。
そう、私が理想とする最高の彼氏は。普段はとっても優しいのに、ベッドの中ではケダモノのように求めてくれるのである。そして、普段はちょっとしか表に出さない嫉妬心や独占欲をむき出しにして、とっても強引な“俺様”っぽいところを見せてくれるのだ。
「そんなに誘ったら、止まれなくなっちゃうぜ?なあ、百合はどうして欲しい?」
「あ、お、お願い!と、とっても、激しくして?」
「へえ……今夜は寝かせないけど、いいんだな?」
「うんっ……!」
こんな会話。喪女で、コミュ障で、ブサイクで、彼氏いない歴=年齢のまま三十路になってしまった私には、一生味わうこともできないと思っていたのに。
彼は、私の脳波をしっかり読み取って、私が気持ちの良い場所をしっかり分かってくれているのだ。ゆっくりゆっくり、焦らすように私のシャツのボタンを外して。まくりあげたブラジャーの下、贅肉の上に乗っかるように持ち上がる胸をきつく揉み上げてくれるのである。そして、胸で一番感じる乳首を痛いくらい噛み付いてくれるのだ。
男とまともに寝たこともない私は、それなのに性欲だけは強いという困った人間だった。つまり、自慰の経験だけは豊富だったのである。胸だけでイケてしまうし――もっと恥ずかしいのは、一番感じるところが“奥”であるということだ。
経験のない女の子は、足の間の花びら――そのさきっぽでないとイケないというのが定説だというのに。私の場合は違う。最初から、思い切りきつく指をねじ込んでほしいのだ。きっと、彼の指なら奥の奥まで届くはずなのだから。
「お願い、脱がせてっ……!我慢できないの……!」
パンツを引っ掛けたままとか、ズラしてやるのは嫌。下着が伸びちゃうし、とても動かしづらいから。
そんな私の想いなど、言うまでもなく読み取ってくれる彼は。既にびしょびしょになってしまっているみっともない下着をずるずると下ろして、しかもくんくんと匂いを嗅ぐ仕草までするのだ。そういうものに、私がとても興奮することを知っているから。
「すっごい……大洪水。なんだ、本当にその気なんだ。しかも、俺は知ってるよ。百合は……さきっぽじゃなくて、中で一人で遊んでるんだものね?それも、一番奥が好きなんでしょう?ほら、わかるよ」
指が、一本入ってくる。もう遠慮もなく、強引に。それなのに、ぬるぬるのびしょびしょのそこは、大した抵抗もなくあっさり飲み込んでしまうものだから恥ずかしくてたまらない。
そして恥ずかしいのに、私のお股は滅茶苦茶喜んで、きゅんきゅんと合成シリコンか何かで出来ている彼の指を締め付けるのだ。
「ひいいっ!」
その指先が。くい、と一番奥の奥。コリコリとしたお腹の中をぐいっと持ち上げた。瞬間、全身にビリビリとした痺れが走り、私はあらぬ声を上げてしまうことになる。
嘘、と思った。指で、奥をちょっとつつかれただけで――完全に極めてしまったのだから。
――やだ、やだ!こ、こんなに気持ちいいんだっ……!
腰が勝手にかくかくと揺れる。花びらの隙間が、きゅんきゅんと勝手に収縮する。何より漏れ出す、恥ずかしいとろとろしたジュース。もうダメ、と思った。指だけでこんなに気持ちいいなら、もっと大きなものを入れて貰ったらどうなってしまうのだろう。
「お、お願い、来て!もう入れて!」
恥も外聞も投げ捨て、私は叫んだ。――叫んでしまった。
「お願い、いっぱい抱いて!彼氏クンの、赤ちゃんが欲しいのっ……!」
その時。
私は自分の手で、大事に大事に守っていたはずの幻想の箱を壊してしまったことを知るのである。
彼に擬似性器は備わっている。セックスの真似事はできるようにできている。でも、後半のお願いは。
「……すみませんご主人様。それは、禁則事項に触れます。不可能です」
彼は、急に無感動になって、告げるのだ。
私が“ロボットであるはずの彼”の子供が欲しいなどと、口走ったがゆえに。
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