理想の彼氏、買いました。

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 ***  わかっていたのだ、本当は――最初から。  ロボットに、心はない。あくまで彼は、私の脳波を読み取って理想を演じてくれているだけ。  もし心があったとしたら、それはもっと残酷だ。私は彼の意思を無視して、自分の理想の彼氏を押し付けていただけなのだから。 「……何、してたんだろうね、私」  その夜。私は泣きながら――彼氏クンのスイッチを、オフにしていた。身勝手がすぎるのはわかっている。スイッチを切ったって、私が浅はかな夢を見てしまっていたことも、彼を自分の妄想と欲望に利用した事実も消えないというのに。  理想通りに動いてくれる、何でも言うことを聞いてくれる、私のことを絶対に否定しない――彼氏。  そんなものに、一体どんな価値があったというのだろう。確かに、好きになった人が何もかも自分の理想通りに動いてくれたらストレスはなくなる。一緒にいるのも楽で、楽しくて、嫌なことを何もかも忘れて過ごすこともできるようになるかもしれない。  でもそれは。相手の心など要らないと言っていることも同じこと。  何の変化もない、停滞した、独りよがりの日々。みんながそんなものを求めるようになったら、この世界はどうなってしまうのか。その環境でどうして、他人への思いやりや本物の愛情を育てていくことができるのか。 「ごめんね、彼氏クン。……もっと前に、気づけば良かった。本当に、本当にごめんね……」  彼の製作者は、一体どんな想いをこめて彼を作ったのだろうか。もしかしたら私たちに、とても大切なことを思い出させようとしていたのかもしれない。  全ては淋しい部屋で一人、想像するしかできないことだ。  部屋の隅で微笑む彼のスイッチを、もう一度入れる日は来るのか。  それは、今の私にはまだ――わかるはずもない。
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