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宝物が飾られている部屋はあまり広くなかったので、すぐに見終わり、宝物殿を後にした。その足で、第一紫陽花苑に向かう。
こちらの紫陽花苑も花が満開で、私たちはゆっくりと散策路を歩いて行った。
苑の中央に東屋があり、少し休憩をしようかと近づいてみると、中には赤ちゃんを抱いた若い女性が座っていた。母子だろうか。赤ちゃんはぐずり気味で、母親が一生懸命あやしている。
私は東屋に入ると、
「可愛い赤ちゃんですね」
とその女性に声をかけた。
「ありがとうございます」
会釈をした母親の腕の中を覗き込み、
「ほら、泣き止んで。ママが困ってるよ」
赤ちゃんに笑顔で話しかけると、知らない人にいきなり声をかけられたことにびっくりしたのか、赤ちゃんがぴたりとぐずるのを止めた。母親がほっとしたように、息を吐いた。
「すみません。助かりました」
「いいえ。何ヶ月ぐらいなんですか?」
「生後6ヶ月です」
そんなに小さい子を連れて、ひとりで紫陽花を見に来たのだろうかと、不思議に思っていると、
「大福みたいな頬だな」
私の後ろから誉さんが顔を出し、赤ちゃんを見つめた。すると、誉さんの顔が怖かったのか、赤ちゃんの顔が、ふにゃりと歪んだので、
「あっ、じゃあ、私たち行きますね」
私は慌てて、誉さんの腕を引っ張った。誉さんも、自分の顔のせいで赤ちゃんが驚いたと考えているのか、苦笑しながら、私の隣に並んだ。
母親がもう一度「すみません」と言って、会釈をしたので、
「さようなら」
と手を振る。
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