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再び歩き出した誉さんの後について、私も歩き出す。
誉さんは、夏でもあまり半袖を着ない。大抵洗いざらした綿やリネンのシャツを着ていて、暑い時はよく袖をまくっている。今日も軽く袖が折られていて、誉さんの、がっしりした手首が覗いている。私はその手にさりげなく視線を向けた。
(手……繋ぎたい)
伸ばせばすぐに届く距離にあるのだが――。
(急に握ったらびっくりするかな。でも、私から握るのは、ちょっと恥ずかしい……)
躊躇っていると、
「どうした?」
誉さんがこちらを向いた。
「な、何でもないです!」
慌てて首を振り、隣まで歩み寄る。
不思議そうな顔をしている誉さんは、私が「手を繋ぎたい」と考えていたなんて、きっと気が付いていないに違いない。
(付き合い始めてから、もう8カ月ぐらい経つんだけどなぁ……)
同じアパートの隣同士に住んでいるので、私はよく誉さんの部屋に晩ご飯を作りに行っている。食後も、一緒にテレビを見たり、お喋りをしたりして過ごすこともあるが、私たちの関係が進展するような出来事は、今まで一切なかった。
(誉さん、いつも飄々としてるし、私のこと、どう思っているのか、今一つよく分からない……)
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