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「わ、忘れて下さい!今のなし!」
私は誉さんの袖から手を放すと、口にした言葉を取り消すように、両手を横に振った。
居たたまれなくなり、誉さんを追い越して先に歩いて行こうとしたら、
「ちょっと待て」
手首を掴まれた。後ろを振り返ると、誉さんは困惑したように吐息した。
「何を心配しているのか知らんが……。あんたのことは好きだぞ」
そう言った後、そっぽを向いて、バリバリと頭を掻く。
はっきりとした答えに胸がいっぱいになって、
「ありがとうございます……嬉しい」
はにかんでお礼を言うと、誉さんは弱ったように私を見た。
「……あんた、いろいろと反則だな」
「反則?」
「いや……なんでもない。行くか」
そう言うと、誉さんは私の手を取った。大きな手のひらで軽く握る。
(……!)
手を繋ぎたいと思っていた気持ちが通じて、嬉しくなった。
「はいっ」
私は誉さんの手をぎゅっと握り返すと、明るい声で返事をした。
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