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1.藤森神社の紫陽花
「わあ!見て下さい、誉さん。紫陽花がとっても綺麗です」
今、私――水無月愛莉が立っているのは、藤森神社の境内にある紫陽花苑。周囲には、青、紫、白、ピンク、様々な色の丸い花が咲き乱れている。
「ああ、壮観だな」
紫陽花苑の中を、私と肩を並べて歩く男性――神谷誉も、視線を巡らせて頷いた。
木立の間に造られている紫陽花苑はそれほど広くはないものの、私の背の高さぐらいの紫陽花が密集するように植えられ、その間を縫うように散策路が設けられている。まるで紫陽花の迷路の中を歩いている気分だ。
「ちょうどいい時期に来たな」
藤森神社は紫陽花の名所。6月になると約1カ月の間、紫陽花苑が一般公開される。誉さんが言うには、一昨年、颯手さんと来た時は、時期が早くて、あまり咲いていなかったらしい。
ちなみに颯手さんというのは、私のアルバイト先、『Cafe Path』というカフェのオーナーで、誉さんの従兄弟でもある一宮颯手のことだ。
今日は、『Cafe Path』の定休日。朝、のんびりと洗濯物を干していた私は、同じく洗濯物を干しに出てきた誉さんと、ベランダ越しに顔を合わせた(私と誉さんは同じアパートの隣同士に住んでいる)。何気なく「今日は天気がいいですね。どこかへ遊びに行きたい気分になります」と言ったら、「じゃあ、行くか?」と誘われて、やって来たのが、ここ、深草の藤森神社だった。
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