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どうして教えてくれなかったの?
夢を見た。
祖父の工房の夢だ。
小さな私はとても可愛がられていて、優しい祖父は私が仕事場に出入りするのも許してくれた。
それどころか、私の落書きめいたスケッチを改良して飛行服の刺繍に使ってくれたり、賢しげに染め方に口を出しても、うんうんと頷いてその通りに染め上げてくれたりもした。
そして「つばさは天才だなぁ」ってよく褒めてくれた。
……今思えば、優しいというより、孫に甘いお爺ちゃんだったと思う。
しかし、そんな祖父も唯一、死に装束に関してだけは、頑(がん)として私のお願いを聞いてくれなかった。
ある日、小さな私が白い死に装束に一生懸命ライオンのアップリケをつくったことがあった。
その場では褒めてくれたが、その日の夕方、私はおじいちゃんがその死に装束を焼却炉で燃やしているのを目撃してしまった。
ショックで一晩中泣いた。
でも子供ながらに負けん気の強かった私は、だんだん悲しみよりも怒りの方が勝ってきて……とうとう翌日、おじいちゃんに問い詰めた。
その時の答えを今も覚えている。
『すまん、死者のための死に装束は白しか認められてないんだ。理由はおまえがもっと大人になった時に話すから、今は勘弁してくれ』
見上げたおじいちゃんの顔は悲し気だった。孫の作ったものを燃やした罪悪感から? いやもっと深い悲しみだった。
まるで、その理由を教える日が、永遠に来なければいいと思っているような。
そうだとしたら、その願いは叶った。
祖父は、私に理由を話さないまま病死した。秘密を私に明かさずにほっとしているような、安らかな死に顔だった。
今思えば、病床の祖父相手にしてでも、無理やり聞いとけばよかったと思う。
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