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あかり
あかりが死んだ
□□□
あかりは竜に撃墜された。暴れる竜の尾があかりに直撃し、叩き潰したのだ。
無線を傍受した私はシェルターから必死に這い出した。逃げ惑う人々の間をかいくぐって、街中に墜落したあかりを必死に探す。
……あかりの遺骸は、まるで肉塊だった。
いつの間にか自分の口から、ああ、ああああ、とうめき声のような叫び声のような声が、漏れていた。
私は震える手であかりの遺骸をかき集め、掬い取って、胸に抱きしめた。
びちゃびちゃと血なのか肉なのかわからない塊が滴り、私の服をまだらに赤に染め上げた。
「なんで、なんで……」
まるで呪詛だ。なんで死んだ。なんで殺された。なんで私はあかりを守れなかった。全部自分のせいにしか思えなかった。
結局、私は竜の討伐を終えた《金鹿隊》の仲間が来るまで、遺骸を抱きしめて絶望していた。
□□□
『――死に装束は、刺繍も染めもない白でなければならない』
『私の死に装束は花の刺繍がいいな』
あかりのお葬式は多くの人が集まった。
《金鹿隊》の面々も、学校の友達も、ボランティア活動先の図書館の人たちも、行きつけの喫茶店のマスターたちも、もちろん親族も。私も。
みんな本当にあかりが大好きだった。最期に顔を見たかった人も大勢いるだろう。
しかし、あかりだった肉塊には顔はもうなかった。潰れてしまっていたのだ。
壇上で花に囲まれた、あかりの笑顔の遺影。その下の棺には頭すら納められていない。
あの棺の中には、私がかき集めた肉塊が、白い死に装束と花に囲まれて安置されているはずだ。
……結局、白い死に装束の裏地に、あかりの好きなスミレの刺繍を入れた。飛行服屋としての禁忌を犯したことになるが、もうどうでもいい。
祟るなら祟れ、呪うなら呪え。いずれ私も死ぬんだ。どうでもいい。
私はあかりの笑顔を思い出して涙が止まらなかった。
私を慰めてくれるあかりは、もういないのだ。
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