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壊滅
竜が三体同時に現れた。初めてのことだ。
何日にも亘る死闘でなんとか全部仕留めたが、隊は壊滅した。隊長も虫の息だった。よりによって私を庇ったせいで!
意識がもうろうとして戦闘機形態を留めておけないのか、隊長は点滅するように時折戦闘機形態から人に戻ってしまっていた。このままだと堕ちて、海面に叩きつけられて死んでしまう。
それを察した班長は慌てて、戦闘機形態の飛行服を脱いで、輸送機形態になった。
「つばさ、俺に隊長を収容しろ!」
「言われなくても!」
叫び返して間もなく、人に戻った隊長が堕ちてきた。
「ッ!」
私は戦闘機形態のままコクピットを開けた。空中で隊長をキャッチする。隊長から流れ出たぬめった血が残りの命の少なさを証明していた。
隊長を抱えたまま、輸送機に突入して私も人に戻る。隊長の身体が冷たい。
生き残った者たちは、負傷者を続々と抱え、輸送機に飛び込んできた。
貨物室に隊長を含む負傷者を寝かせて、私たちは必死に手当をしていた。
「――ッ、私を置いて死なないで、って昔言いましたよね!」
泣いているのか怒っているのか、自分でもわからない。多分両方だ。
「悪い、な。」
「やめてくださいよ! 謝るくらいなら生きてください!」
失血が酷い。手で患部をきつく抑えて、直接圧迫止血を試みる。でもだめだ。隊長の血がだらだらと私の手を伝い落ちる。命そのものがこぼれ続けている気がして、恐ろしさに震えた。
(このまま隊長が死んだら――!)
最悪の予想が頭に纏わりつく。考えたくないというのに、隊長は何でもないかのように口に出す。
「もし、俺が死んだら、班長に全部任せて、お前は脱隊しろ……」
「そんなこと、できるわけないでしょう!」
私はすでに主戦力だ。主力が突然抜けるとなれば、下手打つと皆が死ぬことになる。
「でも、お前は俺を見捨てられないだろ? お前にはどんな形であれ、竜を殺してほしくないんだ……」
ハッとした。隊長は自分が竜になった時のことを言っているんだ……。
私が竜となった隊長を殺して、来世竜になることを恐れている。
……そこまで言うなら、私は竜を殺さないという約束を守りたい。けど、竜となった隊長を見捨てることなんかできない。
迷っていると、隊長が震える手で、私の頭を自分の方に引き寄せて、耳打ちしてきた。
「お前は、普通に生きて、いい来世を送ってくれ。竜になんかなるな」
「……ッ、隊長……!」
その一言を言うために、全身全霊を使ったのだろう。
隊長は、目を閉じて、少しばかり深いため息を吐いた。ごとんと、首の力が抜け、隊長の心臓は停止した。
「隊長!! ねぇ、冗談止めてください! 死なないで!」
必死に心臓マッサージを行う。それこそ、街に着き、病院に収容されるまで。
医者がそっと、私の手を止めさせる。そして腕時計の時間をみて、痛ましそうに言うのだ。
「二十一時三十一分。ご臨終です」
この瞬間、《金鹿隊》隊長、鹿島和泉は、この世のどこにもいなくなった。
帰ってくるときには、竜となって、私たちを殺しに来るのだ。
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