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「どういう意味ですか」
彼は乾いた声で笑った。
「ふふふ。だってそうでしょう?タイムマシーンがあったら。こんなパンデミックはあり得ない。世界の混乱を未来の人は防いだはずだ。それが為されない以上、この先タイムマシーンなどできないと父は確信し、そして絶望したんですよ」
「マシーンは……できない……」
「そう。できない。絶対に!」
「絶対に……」
打ちひしがれる研究員に息子は、真顔を向けた。
「あなたも冷静に考えてください。今、この世界がこのままであるのが、理由です」
彼はそう言って博士の荷物を持ち去っていった。
研究員はその黒い背をじっと見ていた。そこにもう一人が心配で追いかけてきた。
「おい、どうした」
「ああ?あの、俺は辞める」
「え?」
「実家に帰って農業でもやるさ。誰も助けてくれない……現実の出来事を、自分の手で切り開いていくしかないんだ……」
そう言って彼は研究所の庭に白衣を脱ぎ捨てた。
天空からは燃えんばかりの熱視線。これに磔の刑のように首を下げる向日葵の足元に落ちた白い服。
そこにある刹那は無慈悲なくらい人々を平等に抱いていた。
fin
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