亡国のドラクニア

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亡国のドラクニア

 それは遥か彼方……  遠い昔か  それとも未来か  ここより遠く離れた異世界か  交わることない平行の世界か  それとも……    底が見えぬほど切り立った崖のいただきにその城は建っていた。石造りの城は千年の歴史を物語っている。その一室、王宮の間で声が響いた。 「もはやこれまで、姫様、お逃げください」  白銀の鎧を着た老騎士が膝をつき、檀上の若き姫、フィオーナ・フォン・ドラクニアに進言しているのだ。 「しかしなぜ奴らは、これほどまでに執拗に攻めたてるというのか……」  城下では、敵兵士たちが上げる(とき)の声や、城門を砕こうとする破城槌(はじょうつい)の打撃音、カタパルトから投石された石粒が城壁にぶつかる破砕音、そんなものがだんだんと大きく、強くなっていく。 「言語体系が異なるから……なのでしょう」 「姫様は……いまだ話せばわかると?」 「ええ……きっと」 「姫様はお優しい」 「いいえ……しかし、私が出ましょう」 「い、いいや、それはなりませぬ! なりませぬぞ!」  フィオーナ姫はその国最後の……いいや、その種族最後の王族であり、フィオーナが絶命すればその種族は途絶える定めだった。  ――一方、城を取り囲む兵士の先頭にはペガサスにまたがった立派な騎士の姿があった。竜騎将ギリアムだ。 「あとわずか! もうひと押しで我らが勝利だ!」  ――ウォオオオオオオオ――――ッ  ギリアムの呼びかけに兵士達の士気は鼓舞され、さらにさらにと攻撃の力が強まっていく。 「アスレイ! 地上部隊の掃討は任せたぞ!」  ギリアムはペガサスの手綱を持つ少年アスレイに向かって指示をだした。アスレイは竜騎士見習いの少年だ。   「ハッ! して、ギリアム様は?」 「ワシは……アレを討つ。あの……最強にして最後のドラゴンをな」  ギリアムが指差す先、城の塔の上にそれは現れた。この国の守り神――ドラゴンだ。ドラゴンは塔の屋根にしがみつき、その真っ赤な身体をさらに燃え上がらせていた。  ――ヴォオオオオオ――――  ドラゴンは飛び上がると、城壁に取り付いた兵士を熱風で叩き落とした。 「いざ、勝負だ!」  ギリアムが踵を叩くとペガサスはひと鳴きいなないた後、空へと舞い上がった。ギリアムは背に下げている大剣ドラゴンソードを引き抜いた。  ――シュバァ シュバァ シュバババ  ドラゴンもさらに高く飛び上がった。その巨大な影が兵士たちの上に落ちる。かつてなら、その姿を見ただけで兵士たちは畏怖の念をもって剣を置いたであろう。しかし今は怨嗟の念に口を歪ませ、更に強く剣を打ち付けた。  ――ギィヨールルルルルルゥウ――  それはまるで泣き叫ぶ声のようだったという。ドラゴンは咆哮するとギリアムに向かい飛び進んだ。 「一騎打ちか! 望むところだ!」  ギリアムも宙を駆けるペガサスの上に立ち上がると剣を構え一直線にドラゴンへ突撃した。  しかし―― 「ぐ、ぐわぁー」  ギリアムは天空のペガサスから叩き落されてしまった。その体は大地に打ちつけられ大きく弾んだ。  ――シュルシュルシュル  ッスパン  アスレイの前にギリアムの剣が落ち、刺さった。 「ギ、ギリアムさま~~~ち、チキショウ! ドラゴン! 覚悟せよ!」  アスレイはギリアムの剣を取ると走り出し跳んだ。  一歩目で岩を蹴り、二歩目で屋根を蹴り、三歩目でペガサスの背を蹴ってドラゴンの頭上高くまで飛び上がると剣を背中からグルりと振り下ろした。  驚くほどのアスレイのスピードについていけなかったのか、ドラゴンも身動きできず、片腕だけを振り上げた。その爪とアスレイの剣が交わった瞬間――    ――パッ ッシ―――――――――ン     世界は弾け、白き光につつまれた。
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