キネマ闇塚〔2018年〕

6/7
前へ
/51ページ
次へ
『砂の器』  松本清張原作ムービーの中で、最も有名で、最も評価の高い作品だと思われる。内容は知らなくても、題名は知っている。あなたがもしそうならば、前者の方も知って欲しい。俺の持つ印象や感想はさておき、国産ミステリー(風味かな)映画の秀作であることは間違いない。  丹波(哲郎)刑事が犯人加藤剛を追跡する。丹波先生は『砂の器』公開の前年には『日本沈没』の総理大臣役を力演し、同年には『ノストラダムスの大予言』の主役を務めている。推理巨篇から特撮大作まで、なんでもこいという感じである。  信じられないような充実度の高さである。俳優として、最も脂がのっていた時期と云えるだろう。追われる側の加藤さんもぴったりの配役。  序盤と中盤に関しては、ほとんど不満がない。ゾクゾクするぐらい面白い。殺人事件発生。犯人はおろか、被害者の身元さえわからない。丹波刑事と森田(健作)刑事が、唯一の手掛かりである「カメダ」を追いかけるが、そう簡単に謎は解けない。当然である。両刑事はシャーロック・ホームズでもなければ、明智小五郎でもないのだ。  成果を上げられないまま、捜査チームは一旦解散する。だが、丹波刑事は止まらなかった。いささか異様とも云える執念を発揮して、捜査を継続する。時には、自腹を切って。  いったい何が、丹波刑事をここまでやらせるのか。よくはわからぬが、事件の裏側に潜む「途方もないもの」が彼を動かしたのかも知れない。もし彼がいなかったら、加藤剛は捕まらずに逃げ果せた筈である。  映画終盤には、名脚本家、橋本忍会心の大クライマックスが用意されているわけだが、どうもこれが個人的に苦手なのである。  前半と後半の作風の落差に、うまく適応できないのだ。最初の鑑賞の際もそうだったし、今回も同様だった。名画であることは認めるけれど、理屈を超えて、合わない。  加藤剛の心理も理解できない。人生最大の恩人(緒形拳)を殺害しておきながら、その後に作曲をしたり、コンサートを開いたりすることは可能なのか。罪悪感を少しも感じていないとするならば、この男はまさに「人の形をした化物」である。だが、それほどのモンスターとは思えない。  犯行の動機にも疑問を覚える。新進気鋭の音楽家として、全国的に顔が売れれば、遅かれ早かれ、緒形拳に所在を知られることになる。知名度を高めたいのか、高めたくないのか、はっきりしない人である。〔12月15日〕 [シンカワメグムさんのコメント] 砂の器は、父親と息子の悲劇と苦悩が絶賛される一方で、 息子の感情が全く理解不能と酷評されてしまう作品ではありますね。 自分も最後のあれはなあ~…もやもやするう~…⊂⌒~⊃。Д。)⊃ 松本清張って、全体的に過去の宿命からは逃れられない…!と言う 作品スタイルが多いですよね。もう暗くて暗くて重くて重くて、 自分は弱っている時はうっかりタイトルも見れませぬ。ヤバいです(笑) 松本作品が読めるか読めないかで、精神の安定度が分かります(笑) この話は、やっぱりハンセン病です。 幼い子供を置いて行った母、村を追い出される父と子、猛烈な差別、放浪、貧困…当事者でないと本当の意味での理解はできないのかもしれません。 いろいろドラマ化されてますが、ハンセン病の設定は使ってませんね。 法改正はされたのに、まだまだ取り扱うには難しい題材なのでしょうか。 別設定では全然違う話になってしまうのに。残念です。 息子は別人になって迄、過去を抹消しようとし、そんな息子を守ろうと 頑なに知らないと拒絶する父…。千代吉の加藤嘉の演技がスゴイ…!(T_T) 緒形拳演じる被害者の三木が踏み込み過ぎなければ、みんな静かに生きて 行けたのに.…とか思ってしまいます。こ…殺されてしまった…!(´;ω;`) しかし、丹波さんと森田さんの自然で且つ淡々とした演技が、重苦しい 内容を上質なエンターテイメントにしていますよね。特に丹波さんの 棒読み(笑)だけれども、実は抑揚が効いていて抑えた演技が好きです~ 〇田〇賀子のような説明台詞を登場人物には語らせない。リアルです。 万人受けはしないだろう作品ではありますが、(松本清張は全部そう~笑) 自分にとっては、見るたびに色々考えさせられる作品ですね~(´・ω・) [闇塚の返信] 確かに暗いですね(苦笑)。でもそれが、清張先生の個性であり、作風なんですね。そう云えば、来年テレビで『疑惑』をやるそうです。 このことに関しては、映画に詳しい友人とも話しましたが、事情が複雑に絡んでいて、なかなか難しいみたいです。 何も殺すことはないだろうと、観る度に思います。でも事件が起きないと、物語が始まらないんですね。 〇田ドラマは苦手ですね。いかにも「頭で書きました」という感じがします。台詞は長けりゃいいというものではありません。血が通ってないと。 名作だと思います。名作過ぎて困っちゃうぐらい。個人的には『黒の奔流』『影の車』『疑惑』などの方が好きです。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加