コラム風〔2018年〕

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【海竜は滅んだ】  シャットダウン確認後、卓上を片づけ、晩酌の支度を始めた。居室に麦焼酎とミネラル水を持ち込み、水割りを作った。呑みながら『謎の巨大獣を追え』を再読した。同書に収録されている「シーサーペント(大海蛇)近代目撃史」の中に「U28の場合」が出てくる。以下に抜き書きしてみる。  1915年・北海。7月30日、ドイツ潜水艦U28が英国商船を撃沈したとき、破片の間でのたうつ20メートルのワニ頭の怪獣を目撃した。(155頁)  この話を俺は知っている。砂利の時分に読んだ「怪談奇談の類いを集めた本」でも紹介されていたからである。タイトルは忘却の彼方だが、もしかすると、あの本も、南山氏が手がけたものだったのかも知れない。  その本には「海面を突き破って、虚空に跳ね上る鰐頭竜」の見開き挿画が載っており、少年鍋太郎の肝をつぶしてくれた。そしてそれは、まだやわらかい俺の脳髄に「海には途方もない化物が棲んで(潜んで)いるのだ…」という(かなり偏った)印象が刻み込まれた瞬間でもあった。  気になる怪獣の正体だが、南山氏は「ティロサウルス、あるいは、イクチオサウルスを彷彿とさせる」と、書き述べている。もし、この指摘が当たっているとするならば、大変なことである。  ティロもイクチオも絶滅した筈だ。水棲爬虫類の末裔説には、大いにロマンをかき立てられるが、まあ、無理だろう。どんなに強い生物でも、生物である以上は、単体では生きられないからである。  では、U28号の艦長と乗組員の視界に出現したモンスターはいったい何だったのか?まさか、妄想の産物ではあるまい。見てはいけないものを見てしまった彼らが、その後、どのような運命を辿ったのか、中年鍋太郎の関心は、むしろそちらの方にある。〔12月24日〕
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