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【第二章】 第十一話 信じて貰えることで物事は大きく変わる
意を決して挑んだ会話……結果的にどうやら岩部さんは僕の話を信じてくれたらしい。
会話をしている中で少しづつ落ち着いたので、僕の現状を話しつつ幾つかの【力】を見せた。多分それが大きかったんだと思う。
といっても、神様という部分は信じて貰えたかは微妙な気がする。せいぜい妖怪とか思われたかもしれない。
「成る程……では、君は私の為に?」
「初めは役割だと思っていたので……。でも、意図しなくてもあなたの記憶を見てしまいました。だから力になりたいと思ったんです……」
「……どうやら君は損な性分らしいな」
岩部さんは呆れたように笑う。
「それで……どうしますか?」
「………。そう言われても急なのでね……」
岩部さんは複雑な表情をしている。彼の過去の記憶を見た僕には気持ちが少しだけ分かった。
会いたいと思ってもいざとなればやっぱり複雑なんだ。別れた許嫁の今の家庭とか、独身を貫いた岩辺さんの気持ちとか、どうしてもそれぞれの環境を考えて判断しちゃうんだ。
でも……。
「もしその気があるのなら言ってください。今のしがらみじゃなく岩辺さんの気持ちを最優先して下さい。そうでないときっと後悔すると思うので……」
「………」
「僕は大概ここに居ますから」
「……。では、明日まで待ってくれないだろうか? ……えぇと……君の名前は……それとも神様と呼んだ方が?」
「あ……そう言えば名乗ってませんでした。僕は安岐川ヒロトと言います。呼び捨てで構いません」
「ふむ……では安岐川君。また明日来る。済まないが待っていてくれ」
「はい。大丈夫です……どうか後悔しない決断を」
「………ありがとう」
岩辺さんは軽く会釈をして去っていった。
「さぁ……朝御飯にしようね、マウ」
「ナァ~ゥ」
翌日……岩辺さんは同じ時間に現れた。
「答えは出ましたか?」
「ああ。君の厚意を受けとることにした。……ありがとう」
「いいえ。僕……神と言ってもこの程度のことしか出来なくて……スミマセン」
「いや……君との出逢いが私の背を押したんだ。それは、私の本当の気持ちを知るだろう君だからこそ……。本当に感謝している」
「……まだ岩辺さんの望みは叶ってませんから……」
「そうだな……」
それから僕と岩部さんは今後の打ち合わせをした。美緒さんの暮らす場所は他県で結構な距離がある。交通に関しての費用や移動手段を考える必要がある。何せ猫の視点だし……。
といっても実はもう方法は調べてはあった。昨日、電車やバスを乗り継いで行く方法を確認しておいたのだ。
「君としては行くのは何時が良いかな?」
「僕はいつでも良いので岩部さんの都合で調整してください」
「ふむ……では、明日でも大丈夫だろうか?」
「はい。大丈夫です」
この即時の行動力が事業を大きくさせたのかな……。それとも、決意が揺るがない内に動きたかったのかも。
そして更に翌日……僕の予想を上回り岩辺さんは移動手段を用意していた。
黒の高級車……車種は違うけど、日本でも政府要人とかが乗っていたタイプの車が神社の入り口脇に止めてある。
実は岩辺さんはお金持ち。海外での事業に成功した結果もあり大きな会社の事業主さんだった。今は引退したらしいけど多くの財を抱えていて慈善事業に力を入れているみたいだ。
そんな岩辺さんの高級車(運転手付き)にマウと乗り込み、初めての遠征……というと大袈裟だけど、ヤマト世界初めての交通移動となった。
因みにトムはお留守番。神社の管理を買って出てくれた。様子は猫通信で逐一確認するとのこと。
向かう先は三県程跨いだ先──藤園州。【暁】の都道府県は首都以外全て『州』で表記されるらしい。
岩辺さんの想いが届くと良いなぁ……。
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