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【第一章】 第三話 人が逞しくなれるかは多分意識の問題
尻尾を使い簡単な意思疎通ができる不思議なサバトラ猫が家族になってくれた。いきなり放り出されたこのセカイで最初の家族……。
猫って暖かいよね……柔らかいし可愛いし、ココロノスキマがかなり埋まった。
そうなると……名前を付けたくなるのは人間の性かな。呼ぶ度に『猫さん』とか『ねぇ』じゃ嫌だし……。
「猫さんは名前あるの?」
尻尾はイエスと答えるが、飽くまで最低限の疎通しかできないので正式な名前が分からない。だって猫だから喋れないし……。
しかし、勝手に名付けるのも悪いかと思った僕は五十音をア行から確認していく。
名前の最初の行はマ行……それを一音づつ確認すると『マ』……同じ要領でア行の『ウ』。すると猫は尻尾をペタンと床に下ろした。
「マウ……で合ってる?」
肯定の尻尾縦振り。猫さんの名前はマウというらしい。
「不思議な響きだけど、良い名前だね。マウ、今日から宜しくね?」
「ニャァ~」
このセカイで初めて心から笑えた気がした。
………。よし。くよくよしてても仕方無い。考え方を変えよう。
これだけデタラメな状態の転生で、初日に僕が見えるマウと出逢えた。これは不幸じゃなくて幸運だと思う。
それに見えないならこの神社での寝泊まりも出来る。季節はまだ初夏……暑くも寒くもないから、何とか過ごせる。
トイレや水場は神社の敷地内にあるみたいだ。
差し当たってっての問題は食事かな。これを確保できなければ本当に詰む。
「……まさか、マウにお魚咥えたドラ猫なんてさせたくないからね?」
「…………」
マウは顔を洗っている……明日は雨かな?
ともかく、筋を通すなら対価を払えば良い。買い物は書き置きとお金を置いておけば、相手は驚くかもしれないけど損は出ない筈だ。
となると、やっぱりお金か……。普通の手段じゃ手に入れるのは難しいし……ネット環境があれば……いや、そもそも認識されないんじゃスマホの契約も出来ないか。
ん~…………。
「ねぇ、マウ? お金を稼ぐにはどうしたら良いと思う?」
「………」
ゴロゴロと喉を鳴らして僕の膝の上に乗ったマウは、欠伸を一つして丸くなった。
ま、まぁ、猫に聞くのも筋違いだよねぇ……。
さて……いよいよ僕の平凡な頭脳じゃ犯罪しか思い浮かばなくなった。これはマズイ……。
…………。ん?今、声がしたような……。
改めて耳を澄ませば何やら人の足音が……。
あ……マズイ。靴出しっぱなしだった。
「……あれ〜? 靴が置いてある。もしも~し、誰かいますか~?」
居ますよ~!と答えてみるも当然相手には聞こえていない。
声の主は子供?小学生程の女の子が扉の穴から見えた。
「……。まぁ、良いや。それより神様……お願いします。居なくなったウチの猫を捜して下さい。ウチの猫は五歳のトラ猫です」
ん?トラ猫?もしかしてマウのことかと確認してみれば尻尾を横に振って否定している。
「もう一週間も帰ってきません。どうかウチに帰ってくるよう伝えて下さい。お願いします」
女の子は投げ銭をした後、鈴を鳴らし柏手を打つ。同じことを三回行い神社を後にした。
神社の参拝手順ってあれで良いんだっけ?いや……そもそも世界が違うし、子供だし……。というか、手順が違うからと聞き届けない様な神様は賽銭詐欺じゃないかな?
こういうのは気持ちだよね。聞いてますか、神様?
………それにしても、猫捜しか。あの子にとっては家族なんだよね。僕もマウが居なくなったら辛い。
同じ猫を愛する者として見過ごせない!……というのは冗談で、どうせこのまま考えていても打開する訳じゃないし……。
良し。散歩しながら考えよう。何かお金を稼ぐ方法が思い浮かぶかもしれないし、そのついでに猫を捜しても問題ないよね。僕には猫の専門家も付いてるんだから。
……。
但し、車には充分気をつけないとね。
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