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【第一章】 第四話 猫は家に付くっていうけど、案外情が深い
神社の敷地から出た僕は、気晴らしがてらの周囲散策へと乗り出した。しばらくは神社にご厄介になりそうだし、御近所を知ってないと不便だし……。
散策の中で何か生活のアイデアが浮かぶかもしれない。そのついでにあの女の子の猫が見付かれば良いなぁと思う。
もっとも……猫と会話できる訳ではないから、かなりマウに頼ることになっちゃうかな。
そんなマウは僕の頼みに付き合ってくれた。今、僕と並んで塀の上を歩いている。
「マウ。疲れたら抱っこするからね」
「ンナァ~ゥ……」
尻尾は縦に揺れたので『了解だぜ!相棒!』と応え……いや、マウは雌だった。
ともかく僕は神社周辺をフラッと歩いた。
そういえば、この世界に来て驚いたのはコンビニ……。何と、夜十時までらしい。店の入り口に営業時間が書かれていた。
これも自然保護の一環だろうか……夜中、何か必要になったらどうするんだろ?
まぁ、今のままじゃ店に入っても買い物すら出来ないけど……。
あ……交番があった。周辺の地図と道案内が張り出されている。これは便利だ。
………。その横には指名手配ポスターが貼られている。……強盗殺人、詐欺、カルト宗教まで……。やっぱりこの世界は特別優しいって訳じゃないんだね。マウはこんなに優しいのに。
更に脇には交通事故情報が……。ここにカウントされないように気を付けないと……。いや……今の僕じゃ撥ね飛ばされても身元不明か、記憶から消えて放置か……。うぅ……血の気が引いた。
悪い方にばかり考えるのはやめよう。前向き、前向き!
そういえば気付かれないのが恩恵の一つなら、もう一つはどうなったんだろうか?誰かが困っている時の手助けって伝えたんだけど、『悪目立ちしない』って頼んでこの有り様だし期待できないかな……。
「ところでマウ……猫の集まりそうな場所って分かる?」
「…………」
マウはヒクヒクと鼻を動かしている。尻尾は円を描いているけど、これはどっちだろ?分からない?秘密?
昔何かで『猫には集会場がある』って聞いたんだけど、猫って秘密主義だったような……。死ぬ時も飼い主の元から姿を消すっていうし、あの女の子の猫も、もしかしたら……。
いやいや!ネガティブ思考禁止!猫はまだ五歳って言ってたよね!
………。マウにはどうか長生きして欲しい。
そんなことを考えているとマウが突然塀から僕の前に飛び降りた。
「どうしたの?」
「ナァ~ゥ……」
尻尾で『カモン!』という合図をして見せるマウ。どうやら付いて来いと言ってるみたいだ。
マウはやや速歩きで進む。時折後ろを振り返り確認しながら、狭い路地の中へ。更に塀の上、茂みの中、民家の庭先を抜けて行く。民家の庭からはお爺ちゃんが乾布摩擦する姿が……こういう時は気付かれなくて本当に良かったと思う。
そうしてマウの後を追うこと三十分程で、朽ちた町工場に辿り着いた。
鉄骨が剥き出しで錆が浮いている為に全体的に赤く見える……。と、倒壊しないよね?
「マウ。もしかして此処が集会場?」
尻尾を縦に振ったマウは、ペタリと腰を下ろした後でしばらくじっとしていた。
そして……。
「ウニァーーーーーァッ!!」
僕がびっくりする程の大きな鳴き声が廃工場に響き渡った……。
すると……柱の陰や屋根の上から猫が姿を現した。うわ……え?こ、こんなに隠れてたの?猫の集会場じゃなく猫王国?
廃工場は瞬く間に猫だらけになった。大体だけど五百匹くらいいる?こうして見るとカワイイ猫も怖く感じる。舌舐めずりしてるし……。
「マ、マウさ~ん?」
「ンナァ~」
マウは何処か誇らしげだ。
うう……猫達の視線が鋭い。このプレッシャー……まるで獲物を狙う肉食獣だ。一斉に襲われたら間違いなく殺られる!
というか、猫は僕の姿が見えるのか……。マウ以外の猫も僕に視線を向けているし。
さて………。どうしよう?と、取り敢えず対話をしてみようかな……。
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