【第二章】 第九話 必要なものを貯めるのは難しい。不要なものはすぐに溜まるのに

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【第二章】 第九話 必要なものを貯めるのは難しい。不要なものはすぐに溜まるのに

   その日は朝から多くの参拝があった。  子供達が色んな人に声を掛けてくれたのが大きかったんだと思う。朝は通学の子供達が、昼間は御近所の老人達が参拝してくれた。  全員の顔を覚えるのは大変だったから、申し訳無いと思いつつもスマホで写真を撮らせて貰った。  そういえば、スマホ……充電の必要が無いんだけど……これもギデリさんの配慮かな。本当にありがたい。  昼頃になって参拝も落ち着いてきたので、改めて岩辺さんの願いを叶える下準備に入る。トムの『猫通信』を使って【暁】の中に暮らす猫達へと伝達……若い頃の美緒さんの顔を投影した。  かなり疲れたけど、昨日よりはずっと余裕があった。参拝者が増えたお陰?それとも限界近くから回復したから耐久力が上がった?まぁ、とにかく好都合だった。  その後、暗くなるまで参拝者が現れその顔の撮影を続ける。これは後で確認に使おう。  夕食後、再びトムに頼んで『猫通信』を使い調査報告を受ける。夜の時間なら疲れても眠るだけだからね……。  毎日確認すれば何か反応してくれると考えた結果なんだけど、悪い判断じゃないよね?  そして……予想に反して美緒さんはあっさり見付かった。  正確には美緒さんの孫にあたる女性が見付かったんだけど、どうやら同居しているらしい。  ただ、確認するには直接出向くしかない。位置はトムが居れば判るんだけど、交通手段が無い。  きっとこの先、この点でも悩むことになるのかなぁ……。交通手段か……運賃もそうだけど、時間が掛かるのが欠点かな。あまり社を空けてもいられないし。  さて……そうなると、先ずは岩部さんに話し掛けてみようか。信じて貰えなかったらまた別の手段を考えることにしよう。  岩辺さんの家は事前に『猫通信』で確認しているから判る。でも、やっぱり社に来た時の方が信憑性も上がるんだよね……。  逆に早く伝えたい気持ちもあるけど“急がば回れ”とも言うし、岩辺さんが来るまでは他の人の願いを叶えよう。それでまた【力】を創れるまで貯まれば何か便利な能力を増やしたい。  それから数日は出来るだけ多くの参拝者の願いを叶えた。といっても殆どが細やかな願いだった。  中には他人の不幸を願う邪な願いも有ったけど却下。お金に左右される気はないけど、邪な願いをする人は大概ケチだ。  あとは今の僕には荷が重い願い事──病気の家族を治して欲しいとか、借金を返す為に何とかして欲しいとか……。う~ん……必要な【力】が増えていく……。  数日で幾らか【力の素】が貯まったけど、まだ使わない。今の僕に必要な力を創るには少し貯めないといけない気がする。とにかく今は我慢だ。  そうして岩辺さんが僕の元に来てから一週間が経過した。どうやら岩辺さんは毎週決まった日、決まった時間に来るみたいだった。  参拝する姿を確認した僕は意を決して岩辺さんに声を掛ける。それは僕にとって、ヤマト世界に来て初めてちゃんとした『人との対話』になる──。
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