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【第二章】 第十話 人の常識を超えることを
岩辺さんが参拝を終えたタイミングで僕は声を掛けることにした。以前参拝をして貰った際のお賽銭を握り締め、恐る恐るの確認……ギデリさんの話では、これで認識される筈──。
平日の朝……私服の若者が学校にも行かず声を掛けたりすると警戒させるかもしれない。そこは何とか触れないよう話をしよう。
「平日の朝から学校にも行かず私服でフラついているとは大した身分だな、少年よ」
………。ううっ!いきなり急所を突かれた……。
“お早うございます”と互いに挨拶したまでは良かったけど、緊張のせいで言葉に詰まって妙な沈黙があった。そこで岩辺さんの指摘……我ながら見事な小市民だ。
「え、えぇ~っと……僕はちょっと事情があって……」
「ハッハッハ。冗談だ。君が悪い者ではないのはその猫を見れば判る」
不安だった為に抱きかかえていたマウのお陰で、僕はどうやら警戒されなかったみたいだ。マウ……ありがとう!猫の癒しパワーは世代を越える!
「それで……何用かな? 只の挨拶にしては随分と緊張している様だが……」
「あ……」
また見抜かれている。少なくとも何等かの意図があったことはバレちゃっている。
…………。どうしようか……正直に話したところで信じて貰えないよね。でも、話が話だけに真剣に伝えないと駄目な気がする。
ここは怒らせても仕方無い。僕は正直に伝えることにした。
「信じて貰えないかもしれませんが、僕は神の端くれです。大したことも出来ない新米ですが……」
「…………」
やっぱり駄目か……。岩部さんは少し眉間に皺を寄せて俯いた。
でも次の瞬間……岩部さんは神社の周囲に響く程の笑い声を上げた。
「ハッハッハッハッハッハ! 神の端くれか……神社の敷地で随分と豪快なことを言う。面白い少年だ!」
僕は逆に面食らった。岩部さんの記憶は見ていたからある程度性格を知っていたつもりだけど、僕の想像よりも豪快な人だったみたいだ。
但し……信じては貰えなかったみたいだ。
まぁ当たり前か……若僧がいきなり神を語っても信じる人は居ないだろうし、僕も信じないと思う。
でも……ここで諦める訳にはいかない。
「信じて貰えなくても良いので話だけでも聞いて貰えませんか?」
「話……か。怪しげな勧誘は遠慮願いたいのだが……」
「そうじゃありません。これは岩辺さんのことなんです。あなたの長年の願いを叶える為の……」
そこでピクリと反応した岩部さん……。
「何故、私の名を……?」
「あなたの記憶を見たんです。……突拍子も無いことを言ってることは理解してます。だけど、聞くだけ聞いて貰えませんか?」
「……良いだろう。そんなに必死な顔をしているんだ。話くらいは聞こうじゃないか」
「あ、ありがとうございます!」
神社の敷地内にあるベンチに移動した僕と岩部さん。僕は改めて事情の説明を始めた。
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