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何もない暗闇──目を開けているのか閉じているのかも判らない。そんな場所で僕の意識は戻った。
初め僕は何も考えられなかった。自分が誰で、何処に居るのかなんて全く気にならず呆けていた。
でも、突然頭の中に【最後の記憶】が鮮明な奔流となり溢れだしたんだ。
大きな地震……けたたましいサイレン……悲鳴……呻き声……。そして自分の弱くなっていく心臓の音と苦しい呼吸──。
その時点で自分に何があったかという記憶は完全に思い出した。
僕は安岐川ヒロト。ごく平凡な高校生だった。日本で起きた災害で命を落とした……んだと思う。
「はいはい。良くできました〜、ってな」
突然闇の中に響く声と拍手──。今の今まで僕以外にも誰かが居たことには全く気付かなかった。
さっきまでは完全な無音。自分の声も心音も、呼吸音さえも……あれ?僕、呼吸してない?
「そりゃあ聞こえねぇわなぁ。オメェさんは死んでんだしよ?」
死んでる?
「ああ。此処に居るのはオメェさんの魂だけよ。思い出したんだろ?死んだ時の記憶をよ?」
…………。
そう……死んでいて当然だった。あの感じは思い出すだけで身震いが来る。
そうだ!それより家族は?お父さんは?お母さんは?お祖母ちゃんは?お姉ちゃんや弟達は?ああ……どうか、皆無事で……。
「心配すんな。オメェさん以外は全員無事だよ……。しっかし、オメェさんもツイてねぇな? 不幸に不幸が重なっちまった結果死んじまった訳だしな……」
あの……失礼ですが、アナタは?
「おお……コイツぁ悪かったな。じゃあ、お互い自己紹介といこうかね?」
暗闇の中に浮かび上がる指輪だらけの手がパチリと音を鳴らした。途端、上空からスポットライトが照らしたように光が射し込む。
目の前に現れたのは……マフィアのボス風の……五十代くらいに見える男の人……。
「誰がマフィアのボスだ、誰が。俺は神だぞ? それも上位のな?」
神……様……?でも……イタリア製の特注の様な赤地に黒の縦ストライプスーツ、ピッチリと撫で付けた白髪混じりの黒髪オールバック、両手の指には宝石の付いた指輪、そして白のロングマフラーとワニ革のローファー、口には葉巻を咥えているんですよ?あ……もしかしてドン・カミーダさんという名前ですか?
「………ハッ。テェした度胸だな、こんな状況で」
ご、ごめんなさい……お願いですから銃を向けないでください。
「ハァ~……まぁ良いか。これまでの奴等に比べりゃマシな方だしよ」
……?
「おっと……魂の状態じゃ会話がやりにくいな。ちっと待ってな」
ドン……じゃなかった。神様?がまた指を鳴らすと……。
「……あ、あれ? 手や足が……この手触り……声……。これは僕の身体?」
「そ~だよ。なぁ、オメェさんよ。ちっと話をしようや」
「て、鉄砲玉ならお断りします」
「……いい加減マフィアから離れろ、コラ」
眉間に皺を寄せて口許だけ歪んだ笑いを浮かべる神様の迫力に、僕は無言になるしかなかった……。
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