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「さて……んじゃ、自己紹介からだな。俺の名前はギ・デリー・グリドラン……さっきも言った様にこの辺りで神をやってるモンだ」
「は、初めまして、神様……僕は安岐川ヒロトって言います」
「知ってるよ。これでも神だからな」
神様はベンチ型革張りソファーの背もたれに両肘を掛け足を組んでいる……。やっぱりドンにしかみえない。
「俺は神だからオメェさんの考えも聞こえてんぞ~? 話やめて闇に帰るか? んん?」
「ご、ごめんなさい」
「謝りゃ良いってモンじゃねぇぞ、ゴラ? ちっ……まぁ良い。取り敢えずザッと説明をしてやる。聞きたいことがありゃあその都度聞け」
「は、はい……じゃあ、早速……。本当に僕の家族は無事なんですね?」
「ああ。今回お前の世界──日本に起きた災害は限定的でな……。実のところ、ありゃ地震じゃねぇんだわ。所謂『震災』じゃなく『神災』……神がぶつかり合うと起こる余波ってヤツでな。全く……余所モンが人のシマ荒らしてけつかってからに……。まぁキッチリ落し前付けてやったがな」
「…………」
「話が逸れたな。まぁ、何だ。たまに有るのよ……神ってのも様々だからよ? でも、そりゃあ人間にとっては災害として扱われるから無かったことにゃならねぇのよ。だからオメェさんの死は変わらねぇ」
「それは……残念です」
「ワリィな」
神様は時折神様同士が喧嘩すると災害が発生するんだって教えてくれた。大概は局地的な災害だけど稀に世界が滅ぶとか物騒な話を聞かされた。幸い、今回は限定的なものだったらしい。
「その……さっき言ってた『不幸に不幸が重なった』って何ですか?」
「ん……? 神災もそうだがよ。オメェさんの死んだ原因の鉄塔な……動かなきゃ当たりゃしなかった訳よ。それが自分から当たりに行っちまった……それは分かってんだろ?」
「はい。でも、それは……」
「皆まで言うな。無意識に助けちまうたぁオメェさんは随分善人だってことだな」
鉄塔が倒れてきたあの時──子供と母親が怪我をして倒れていたのが見えた。だから僕は駆け寄って肩を貸した。そして倒れてくる鉄塔に気付いて……親子が巻き込まれない為に突き飛ばして……。
でも、その点は怖かったけど後悔はしていない。
「何で後悔してねぇんだ? そんなに善人かよ?」
「……。あの一瞬、ウチの家族の姿と過重なって……。だから死んで欲しくないなって……」
「そうかい……。そのお陰であの親子、無事だぜ?」
「そうですか……良かった」
神様は葉巻に火を付けて大きく吸い込んだ。
「馬鹿野郎だな、オメェさんは」
「自覚は……してます。結果として僕は自分の家族を悲しませたことになるんですよね……」
「……。まぁ、分かってんなら良いさ。生き返らせてやれる訳じゃねぇし、罰則もねぇ。それもオメェさんの生き方だったってだけだ。……さて、話は戻るぜ?」
再び葉巻を吸った神様はその煙を僕に吐きかけた。けど、別に煙さは感じない。
「まず、此処は魂の分水嶺てヤツでな。この辺りの『セカイ』で死んだヤツらは必ずここに来る。で、選択を迫られるのよ」
「選択? どんな……」
「それはなぁ?」
1.死んだら終わり
2.死んでも続く
3.例外
「……随分とザックリとしてますね」
「ウルセェよ」
【1】の場合は当人がそのまま魂の維持を諦めた際の対応だと神様は言った。最後の記憶から遡り生きることを諦めた魂は一度分解され、他の同じ様な魂と混ぜ合わせ新たな魂として生まれ変わるんだって。
神様の例え話が『チーズフォンデュ』だったのはちょっと引いた。
そして【2】の場合、記憶のみを封印して新たな生命を与えられるのだと神様は肩を竦める。
『セカイ』に存在する命は殆んどがそれだと聞かされた。
「なんでそんなことに……」
「なぁに……魂ってのは鍛えりゃ鍛えるほど強くなる。その転生の繰り返しが新たな神を生む種になるんだよ。実は神ってのはいくら居ても困らねぇんだ。『セカイ』は広がり続けてっからな」
「……?」
「まぁその話は別に重要じゃねぇ。ともかく……だ。また会いたい魂があるってぇと、大体繰り返しを選ぶな」
「それって何回繰り返すんですかね……?」
「さてな。個人差が有りすぎるが、大概は千回以上だな。転生も人間になれるたぁ限らねぇし人間に限った話でもねぇからな。だが、最後が人間以外のヤツの方が転生を望むぜ?」
そんな説明を受けた僕は、今置かれている状況をようやく理解した。
「つまり……僕も選ばないとならないんですね?」
「ようやく察したかよ。これまでの話はそれを踏まえたモンだ」
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