第0章 闇の中での出逢い

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「俺のところに来る魂ってのはよ? 普通はこうして相手をしなくても勝手に選択して『新しいセカイ』を目指すんだぜ?」 「じゃあ、何で僕は……」 「それが【3】の例外ってヤツだ。神災に巻き込まれたモンはな……少しだけ権利を貰える。出来るだけ希望に添った『セカイ』への転生が許されてるのさ。但し……元のセカイ以外になるがな?」 「つまり僕の家族にはもう……」 「そこはまぁ、少しばかりの間は離れることになるだろうよ。だが、次の生まれ変わりではアッチから寄ってくる。魂の繋がりってのは先に逝った者の後を追う傾向があってだな……」 「それなら、僕はお祖父ちゃんの魂が居る『セカイ』に……」 「お前の祖父さんは早くに死んだんだろ? 生まれ変わってお前の弟やってたぞ」 「…………」 「お前の爺さんは天命だから移る必要が無かったって訳だ」  成る程……別の世界への生まれ変わりって意味が判った気がする。普通は家族の元に帰るけど、今回は僕が『セカイ』を移るから皆が後から付いてくることになるみたいだ……。 「察しが良いヤツは嫌いじゃねぇぜ」 「それなら……優しい世界が良いな……。戦争やいがみ合いが無い世界が……」 「そんなセカイは無ぇよ。魂が争うのは強くなる為よ。じゃなきゃ魂は直ぐに(ほど)けちまう。叩かれて鍛えられる……生きるってのは戦いだ」 「………」 「だが、オメェさんツイてるぜ? 【3】の例外には幾つかあってな? ソイツが生きている時に救った命がありゃあ、その数の願いを聞いてやれる。但し、それは心から救いたいと願って行動したものだけに限られるがな」  神様は特例についての話をしてくれた。  神災に巻き込まれるという不幸で転生する魂は、生涯に真実から救った命の数だけ優遇してくれるのだそうだ。救った命が無い場合は一つだけ……それ以上の時は加算されるとのこと。  それは望む『セカイ』への転生、残してきた家族への恩恵、転生の際に与えられる天啓、その他諸々を出来る範囲で叶えてくれると神様は言った。  ただ、虫等を救った場合は滅多にカウントしないらしい。理由は大きさじゃなくて生態系に関わることなんだとか。  人間が救った気でもそれは自己満足の場合が多いんだって神様は肩を竦めた。  因みに、誰かを殺していても救っている数が減点扱いになることはないそうだ。特典は飽くまで命を救った数が反映されるみたいだった。 「今回の神災では結構な人間か巻き込まれて死んだからな。大変だったぜ? 一々確認して『セカイ』に送り出すのはよ」  殆どの魂は元の『セカイ』と似た場所へ転生したと神様は言った。それはそうだと思う。便利な暮らしの現代日本に生きている人間がわざわざ不便な暮らしを選ぶ意味がない。  『願ったセカイ』を選べるのだ。少なくとも住んでいた世界より政治や暮らしが安定している世界を選べば以前より幸福になれるのは目に見えている。 「だがなぁ……。たま〜に居るんだわ。異世界に転生すんなら剣と魔法の世界だとか、チートが当たり前だとか、何で女神じゃねぇんだとか……」 「あははは~……」  ラノベは僕も読むけど、目の前の神様に怯まず『異世界無双』を要求する人は凄いと思う………。 「そ、それで……その人達は?」 「望み通り送ってやったぜ? 但し、救った命はゼロだから願いは一つだけ叶えた。だから異世界に送っただけだがな?」  結果として記憶を失った上チートも貰えない異世界転生。それってモブキャラを増やしただけなんじゃないかな……。  その魂を追うことになる家族は大変だなぁ。  神様の話じゃ、日本のアニメ好きの自衛隊員さんが大勢を救っていて、異世界チートの願いを叶えて貰ったそうだ。  とはいっても、魔王をアッサリ倒せるチートは無いらしく『与えられた恩恵』を自分で強化しないといけないとか何とか……。 「で、オメェさんはどうするよ? 異世界チートってのをやりたかったら一応は出来るぜ?」 「ち、因みに僕が救った命って幾つあったんですか?」 「オメェさんは何と六つもあったぜ?」  神災で鉄塔から守った親子で二つ……と思いきや、母親のお腹に小さな胎児がいたので三つ。後は昔、川に流された子犬を救ったことがある。因みにその犬は僕の家で飼っていた。  最後の二つは記憶がないけど誰かを救ったのは間違いないらしい。 「六つ……。それってどんな願いも?」 「いんや……。さっきも言ったが俺のできる範囲に限る。神にも制限はあるんでな……何でもかんでもって訳にゃいかんな。だが、叶えられるかどうかはちゃんと教えてやるぜ」 「じゃ、じゃあ……」  真っ先に願ったのは生きている家族が平穏無事に一生を終えること。それと……。 「家族からお前に関する記憶を消すだぁ? 正気か、オメェさん?」 「だって、僕のことで悲しませるのは嫌だから……」 「……。じゃあ、記憶を消すんじゃなく封印で良いだろ。そうすりゃ家族が追って来やすいぜ?」 「じゃあ、それでお願いします。あ……。それと、家族が『神災』に巻き込まれないようにも……」 「そりゃあ普通は無理だな。が、ソイツは俺個人が約束してやる。ウチのシマの堅気だからな……」 「堅気……」 「まぁ、これで特典の残りは四つ。その前に、どんな世界がお望みだ?」 「皆さんと同じで元の世界に似た『セカイ』が良いです。ただ、やっぱり僕は優しい世界が良いな……」  僕の言葉に頷いた神様は幾つか候補を出してくれた。僕はその中でも少しだけ争いが少なく、自然保護……やや自然崇拝寄りの『セカイ』を選んだ。 「ま……オメェさんらしい『セカイ』だな。さてさて……残った三つは恩恵として付けてやれるが……」 「別に良いですよ。下手に変な力を持つと大変そうだし……」 「金持ちに生まれるとかは要らねぇのか?」 「特には……。あ! 記憶の持ち越しは……」 「それなら出来るぜ? あと二つ。コイツは消化しねぇと転生できねぇんだよ」 「じゃあ、神様にお任せします」 「自分のこったろうが。自分で決めろや」 「そ、それなら、あんまり悪目立ちしない様になりたいです。それと、困っている人が居たら助けたいかなぁと」 「良し。それなら何か恩恵を見積もって……」 「た、大変ですぜ、アニキ!」  会話中の神様の脇に突然見知らぬ人が現れた……。パッと見、やっぱりソッチの筋の人に見える。 「何だ……。騒々しいぞ、バルカン?」 「そ、それが、また余所(よそ)のヤツラがウチのシマに……!」 「んだとぉ? ちっ! 立て続けて何だってんだ。おい、バルカン! 若い衆集めろ! ウチのシマに手ェ出したらどうなるか……キッチリ刻んでやる!」 「分かりやした!」 「おう! ボウズ! 俺ぁ今から仕事ができた! オメェさんの家族を守る約束もあるから急がにゃな……ワリィがここでお別れだ!」 「えっ? あ、あの……」 「じゃあな? 元気でやれよ?」  神様はゲシッ!と僕を闇の中へと蹴り出した。途端に僕の意識は遥か遠くに見える光の方へとグングン引き込まれていく。そのまま光に近付いた僕は暖かな気配に包まれた。  残り二つの願いはどうなったのかという疑問があったけど、薄れゆく意識には逆らえない。僕はそのまま光に解ける感覚を受けながら眠りに就いた……。  
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