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【第一章】 第二話 ホームレス転生って現代基準で考えるとシビアだよね
さてと……泣いてても仕方無い。けど、実際どうしよう?
こんな呪い……じゃなかった、恩恵を与えられた身としては何とかしなくちゃならないんだけど、恩恵とか超能力とか何の知識もないからなぁ。手探りで行くしかないかな……。
ともかく、腹は減るし寝るところもない。試しに街を歩いてみたものの、僕に気付くのは激突する人達ばかり。これじゃ直ぐに神様に合う前のあの暗闇に戻ることに……。
見えないんだから盗みもやりたい放題と考える人も居るかもしれないけど……でも、それは最後の最後まで我慢しよう。
それよりアルバイトでもしようかと思うんだけど認識されないんじゃ接客できないし……。
という訳で体育会系の人に体当たりして実験したんだけど、しばらくすると認識から消えちゃうらしい。だから再度体当たりしてみたら、前にぶつかったことさえ記憶に残っていなかった。つまり肉体労働も無理。だって、労働の成果も伝わらないし、仕事の様子も相手の記憶から消えちゃうみたいだから……。
………。正直、詰んだ。
僕、何の為に転生したんだろ?いつまで生きられるんだろうか?地上に出た蝉だって実は一月以上生きるのにね……ハハハ。
犯罪だけはどうしてもやりたくない。一度妥協すると当たり前になって罪の意識すら無くなっちゃう可能性があるから。
だけど、限界が来たら自我を保てる自信がない。飢餓って地獄だって言うし何より僕は根性がある方じゃない。
ともかく……通りが多いところに居ると危険が目白押しなので、トボトボとこの『セカイ』で最初に目が覚めた神社へと向かう。街外れにあるちょっとだけ高台に建立された神社は、ソコソコ古いけど割としっかりした造りだ。お陰で雨風は凌げると思う。布団も何もないけどね。
石製の大きな鳥居と木製の小さな赤い鳥居があって、敷地内には大きな岩が幾つか置かれていた。後は桜の樹が植えてあるみたいだけど季節外れで花は咲いていない。
一応、賽銭箱もある。覗いてみたら何か手紙みたいなのが入ってたけど、誰かの気持ちが書かれていると思うと勝手に見れないので放置。他にもお金が入ってたけどもギリギリまで……本当にギリギリまで我慢しようと思う。
そんな神社の社──その入り口に一匹の灰色の……サバトラ猫が横たわっていた。
「…………」
「…………」
「………あの~……通して貰えないかな?」
僕は無駄だと知りながら猫に問い掛けた。すると、まるで聞こえているかの様に尻尾が反応を示した。
お、おお……これは、このセカイで初めて僕に気付いてくれてるのかな?
「も、もしかして聞こえてる? お話ししないかい?」
今度の問い掛けには反応を示さない。
やはり気のせい……そう思い項垂れた時、猫は面倒そうな溜め息を吐いて“のそり”と起き上がる。お前は太ったオバチャンか。
起き上がった猫はしばらく僕を眺めた後、アクビをして社の扉が開く位置に避けてくれた。やっぱり言葉を理解してる気がする……。
「……ね、ねぇ? 言葉通じてる? というか喋れる? いや……流石に喋れないか……。そ、そうだ! もし僕が見えて言葉が分かるなら尻尾で答えられない? イエスなら縦、ノーなら横で……」
最早なりふり構っていられない。これは孤独から脱する貴重な機会……猫でも何でも触れ合いが欲しいんだ。じゃないと心が世知辛い現実に押し潰される。
猫は僕の問いに対して早速尻尾を縦に振った。これで会話が通じていることは確信した。
そうとなれば仲良くなれるかもしれない。ずっと一人ぼっちでいるのが実は一番辛い。僅かな間でも意思が通じないのは地獄に落とされた気分だった。
「き、君はもしかして……転生者?」
猫の尻尾は左右に動く。ノー……つまり転生者じゃないみたいだ。
「この『セカイ』……ヤマトってもしかして不思議な力を持つ生き物が居るの?」
今度は縦……。どうやら猫は不思議な力を持っているから意思疎通が可能なのかも……。
「僕、異世界から神様に送られて……あ、異世界転生って分かる?」
イエスの反応……ヤマトでは異世界転生って割とポピュラーなのかな?
「あ、あのね? 僕は他の『セカイ』から異世界転生したんだけど、どういう訳か誰にも気付いて貰えなくて……は、恥ずかしいんだけど凄く怖くてさ……」
猫の尻尾は円を描くように動いている。この場合は……どっちだろ?
「改めてお願いなんだけど、僕の家族になって一緒に居てくれないかな?」
しばらく尻尾を不規則に振った猫は再び溜め息を吐いた後、“イエス”の意思を見せた。
僕は……嫌がる猫に縋り付いて大声で泣いた……。
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