第二章 あいまいな記憶

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第二章 あいまいな記憶

 ふんわりと何かお香のような匂いがしている。もしかして小瓶のふたを開けたのだろうか。今まで小瓶のふたを開ける事などなかったのでギョッとして、思わず風ちゃんの方を見てしまった。風ちゃんはニコッと微笑んでいる。 「いい匂いの瓶で良かったね。何しろ匂いって色がついてないから、時々何の匂いが入っている瓶なのか忘れてしまうのよね。はは、うっかりうっかり」  忘れるって…今の口調だと刺激臭もあるような言い方である。  小瓶、匂い、置いたり、置かなかったり。  並べたり、並べなかったり、  空っぽだったり、空っぽじゃなかったり。   (空っぽじゃなかったり…?)  あれ? なんで今「空っぽじゃない時がある」と思ったのだろう。見ていた小瓶はいつも空っぽだったから何が入っているのかわからなくて不安だったのでは? ―チャプン  小瓶の中に少しだけ液体が入った状態を知っている。頭に浮かんでいる映像は、なんだか自分の目線が低い。背伸びをして、どうやら靴箱らしき所に 「う~~。よいしょ…(コトン)あ! 置けた」  と言っている。自分が発した言葉なのだろうか、頭の中の声なのだろうか。わからない、ぼんやりしている、曖昧だ。  小瓶を置くのは風ちゃんの癖なのだから、そうするとこの小さい子供はもふ姉ちゃんという事になる。しかし、この年齢のもふ姉ちゃんだったら、私はまだ赤ん坊ぐらいだ。  次に場面が動いた。 「●●●ちゃん、鳥さんはそういう形していないよ。それはイラストの鳥さん。ちゃんと目の前の籠の中の鳥さんを見て。ほら、ここくちばしのところに、こういうのがあるでしょ? 羽とか足とか。よく見て。まだイラストっぽいなあ」  鳥の絵を描くのが苦手なのは…私だ。  幼稚園の時に、画用紙に鳥の絵をみんなで描いていた。  目の前に本物の鳥を置いて描くのだが、私はその時好きだったサブレみたいなイラスト風の鳥の絵を描いたので先生に注意されたのだ。先生が見張っていないと、まだイラスト風に描こうとしていたらしく、見張られるようにして鳥の絵を描いた。それから鳥を見ても、どういう形なのか判別できなくなった。羽根がある、くちばしがあるとかパーツは判るが模写が出来ない。  手の中に何かの感触があった。固い、なんだろうこれ。  持っているのは、空っぽの小瓶だった。  特に理由があったわけでもなく、コトン、と私は先生の机に置いた。落し物だと思ったから。落し物は先生に届けなければならない。 (続きは『こわいはなし』にて掲載。全体5200文字)
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