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いざ、ドラゴンの住処へ
翌朝、香ばしい香りとともにマーリンが目を覚ました。目を開けると、ロンダが魚を焼いていた。
「お前、いつの間に?」
「こうでもしないと起きないでしょう?」
ドンの方を見ると、既に満足そうな顔をしている。
「くそっ、あいつだけ……」
「あなたの分もあるわよ」
ロンダは焚火を指さした。まだ5匹の魚が残っていた。
「お前、良いやつじゃん」
「そういう言い方じゃなくて、ありがとうと言うのよ」
「……ありがとう」
マーリンは照れくさそうにそういうと、じゃあいただきます、と魚を貪り始めた。
「ああ、おいしかった。お前、魚釣ってくれたんだな」
「まあ小さい頃から、田舎で暮らしていたからね」
ロンダは得意げに笑って見せた。
「今も小さいけど。いてっ」
ロンダに頭を殴られたマーリンを、ドンが嬉しそうに眺めていた。
「ドン、お前助けろよ」
「ドンにまで怒るのね、あなた」
「もういい、いくぞ」
怒ったマーリンが、ドンにまたがる。ちょっと、というロンダにマーリンは無言で手を差し出した。
「え?」
「掴めよ、はやく」
ロンダがマーリンの手を掴むと、マーリンがドンの背中に引き上げてくれた。
「あ、ありがとう」
「ほら、ドン行くぞ」
ドンは背中の会話ににんまりとしながら、勢いよく飛び立った。
ドンは、風を大きく切って進んでいく。
「朝の風ってこんなに気持ち良いのね」
ロンダはとても嬉しそうだった。ああ、とマーリンが小さく呟く。
「ドラゴンって本当に素敵な動物ね」
ロンダはそう言うと、少し顔をしかめた。これから彼らが行く場所は、ドラゴンの住処。その場所を政府に教えるとなると、彼らの自由が奪われてしまうことは、容易に想像がつくことだった。
「それでも、俺にとってはこいつを助けることが一番大事なことなんだ」
マーリンは、決意を固めたようにそう言った。ドンも同意するように声を上げた。
「ふふっ。あなたたちになら、なんでも乗り越えられそうね」
「ところでドラゴン学者さんよ、何かドラゴンの居場所にヒントはないのか? 闇雲にこうやって空から探すしかないのか?」
マーリンが不満げな声をあげる。
「いえ、ドンにはもうわかっているはずよ。ねえ、ドン」
ドンが、頭を縦に振りながらクォッと声を出した。
「なんだ、そういうことなら言ってくれよ」
「てっきり説明されたものだとばかり思っていたわ」
ロンダが肩をすくめた。
ゴホゴホゴホッ。その時、ドンがまた咳を始めた。少しずつ、高度も落ちていく。
「ドン、大丈夫か、ドン」
マーリンが心配そうにドン背中をさする。
「いったん休憩してどこかに休みましょう」
ロンダも心配そうにそう言った。
「ドンの咳を治すために、私もいろいろ試してみたんだけど効かなかったわ。だから今もこうして……。ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ。ドンのことは全て俺の責任だ」
マーリンが、怒ったような口調で言い放った。ドンは、高度を落としながらも飛行を続けている。
「どうしたんだ。降りていいんだぞ。休憩しよう」
マーリンが焦っていた。
「もしかしたら、近いんじゃないかしら」
「近いって?」
その質問の答えは、ロンダに聞かなくてもすぐに理解することができた。下を見下ろせば、ごつごつした谷の合間にできた大きな空洞に、なんと赤い肌をしたドラゴンたちがすやすやと眠っていたのだ。
ドンはその時初めて、降下を始めた。ゴホゴホッ、苦しそうだが落ちないよう必死に羽を動かしている。
「ドラゴンから少し離れた場所におりてくれ」
マーリンが指示したにもかかわらず、ドンはドラゴンたちのいる方に降りていく。もう、方向を変える力も残っていないようだった。
「まてまてまて!」「キャー!」
ドスン。最後は力尽き果てたように、ドラゴンの住処ど真ん中に、ドンが羽を降ろした。周りのドラゴンたちは大きないびきをかいている。まだ起きてはいないようだ。マーリンとロンダは静かにドンの背中から降りた。
「これはまずいわ。早くいかないと」
ロンダが、マーリンの手を引っ張ろうとする。
「ちょっと、何するんだ? ドンを置き去りになんてできない」
「ドンなら、ドラゴンだから心配ないわ。ドラゴンたちは仲間意識が強い。初めて出会ったドラゴンに対して急に襲い掛かるなんてこと、ないはずよ」
「そんなのわからないじゃないか!」
マーリンは動こうとしない。沈黙が訪れた。
「……え。」
いつの間にか、鳴り響いていたいびきが止んでいる。マーリンとロンダは固まっていた。その後、ゆっくりと顔を上げる。じろり、とたくさんのドラゴンからの視線を集めていた。見渡す限りのドラゴンに、もう逃げ道は残されてなどいなかった。
「終わった。ドラゴンが人間に抱く恨みは底知れない。もう終わりよ私たち……。まあ、あんなに会いたかったドラゴンに囲まれて死ぬなら本望ね……」
ロンダが必死に作った笑顔でマーリンの方をみた。
「この子を、助けてください! お願いします」
マーリンは、地面に額をつけてドラゴンたちに頼みこんでいた。ロンダは、その光景をみて自分の頬に涙が流れるのがわかった。ドンの命が助かるならば、自分の命はどうだって良い、それがマーリンなのだとロンダは深く理解した。
「お願いします! 助けてあげてください」
マーリンが隣を見ると、ロンダも額を地面につけて土下座をしていた。
「ロンダ……」
マーリンは、再びその額を地面につけた。
クォッ!クォ!ドラゴンたちが大声で叫び始めた。二人が顔を上げると、一匹のとびきり大きなドラゴンが羽を大きく広げて、二人に振り下ろした。
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