くりかえし

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隣室のドアが「バタン」と閉められる音が聞こえた。 3秒後に「失礼します」とマネージャーの鈴木君の声。この3日間、棚卸やら後処理やらで、たぶんほとんど休めてないはず。目の下のくまが目立ってる。 「全部終わりましたので、最後お願いします」 「了解」 面倒くさいけれど、彼はアルバイトから僕が目をかけて、社員にまで引き上げたわけだしね。最後に一言ぐらいはね。もう二度とあうことはないだろうけど。 僕が部屋に入ると、椅子に座ったまま彼は、頭を下げた。そのあとはずっとうつむいたまま。 長机を挟んで、対面に座った。怒鳴るパターン、さとすパターン、大まかにはこの2パターンがあるわけだけど、今回はさとすパターンでいきましょう。 じっと彼を見つめる。顔はあげてくれない。 「残念だよ、本当に」 「・・・・すいませんでした」 か細い声で謝罪を受けた。 「本来なら刑事事件にするんだよ。そうすると前科ついちゃうからね、23だっけ?」 「・・・はい」 「あなたには、これからがあるからさ。大きいとことか公務員、難しくなるから皆が内々で済ませたいって言うんだよ。だから今回はこういう形で終わりにする」 「・・・・はい」 「ただね、うちにもし、あなたが次に入る会社から、照会があった場合にはさ、本当のこと言うから。それは仕方ないと思って。そこは嘘つけないから」 「・・・・・はい」 「何か、あなたからはある?」 「・・・この度は、本当に、本当に、申し訳け・・ありませんでした」 「うん、そうね。あなたはうちの会社のみんなを裏切ったわけだからね。それ、忘れないでよ」 「・・・・はい」 「じゃあ、これで終わり。はい、立って!」 のそのそと立ち上がって、ドアに向かった。 鈴木くんが、ノブに手をかけ、ドアを開ける。ゾンビのようにショボショボと歩く彼のうしろから、僕は声をかけた。 「離職票とかは、後で自宅に送るから。以上かな?」 鈴木くんに一応、確認。うなづいてくれる。 「はい・・・申し訳けありません・・でした」 二人で階段を降りていく彼を見送った。 鈴木君が声をひそめて言う。 「親には毎日、残業してもなにもつかないし、ボーナスもないから、どーのこーの言ったらしいです」 「ふーん」 「母親から、毎日、帰ってくるのが夜遅くで、労働環境どうなってるって、ちょっと言われました」 「で、何て言ったの?」 「いや・・それと横領は話が違うと」 「ふん・・サービス残業やれなんて一度も言ってないよ」 「はい」 「前年の数字を必ず超えろって言うだけじゃんね」 「はい」 「そんなの、どこだって変わらねーよ」 「はい」 「皆にね、棚卸は正確に。入出庫も正確に。買取も入力も正確に。高額商品の 売って買っての繰り返しが頻繁な人がいる場合には、必ずお前に連絡を入れるようにってことの徹底ね。責任者には売上じゃなくて、利益を出すんだって、ちゃんと言ってね」 「はい」 僕が会社を解雇になった時は、実はもうちょっと明るい感じだった。 「警察はどうだった?」って、興味津々に聞かれたりして。 「残念だけど、クビだから」って、軽い感じだった。 まぁ、それはそうなるだろうと思っていたから、驚きはなくて。 「残念」って、あの時、僕も言われた。 逆の立場になったからわかるのだけど、やっぱり最低でも、雇ったスタッフには、支払っている金額の倍~3倍は稼いでもらわないとどうにもならない。 あの頃、僕は10倍ぐらいは稼いでいたはず。だから、残念の言葉は本心だったんじゃないかな。 今日の僕の残念はね。もっと頑張って、うちに落としてから、「やらかせよ」って、感じでしょうか。 はやすぎるんだよ。我慢が足りない。 薬やってでも、365日、休みなく「働く」ような、バカみたいなスタッフを雇いたいよね。 会社を大きくしたいからね。 それにはやっぱり、若くて体力があって、社会経験が少ない18~25歳ぐらいの卒業したてがベストだよね。 でもね、中にはさ、凄く結果を出してくる奴もいる。 「俺、これだけ稼いでるんだから、このぐらいはくださいよ、でなきゃサヨナラしますよ」って宣言してくる奴。本当にかっこいいよね。 そういうのに会えた時って感動しちゃう。 どうしようかなーって悩んでしまう。                おわり
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