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店舗の2階にある事務所で、僕はいろいろと仕事中。
隣の部屋から時々、怒鳴り声が聞こえてくる。
「~ぐらいじゃねーよ! どんだけ盗んでんだよ、てめえはっ!!」
ドンッとか、ガンッとか、机とか椅子を叩いたり、蹴る音も聞こえてきたり。
絶対に直接には手をあげないように何度も注意してるから、そこは大丈夫だと思うけど、まぁ、やっちゃったら仕方ない。そこは自己責任で。
小売販売の店舗では、盗難等の犯罪行為は客に扮した奴以外にね、働いているスタッフによるものもあったりして困りもの。
今回はそれ。それも、店舗管理者ときたもんだ。
バンッと荒々しくドアを閉める音がして、3秒後には「失礼します」と、丁寧にドアを開けて、さっきまで隣室で怒鳴り散らしていたマネージャーの鈴木君が入ってくる。身長は170ぐらいだけど、肩幅広く、ガタイがよいので、こんな時にはうってつけ。
「社長、80万ぐらいなんじゃないかって言ってますけど、どうします?」
5分前に彼自身が「ぐらい」って台詞を吐いて怒ってたのに、その言葉で報告するんだって、ちょっと笑った。
「もっとでしょ。一緒に棚卸してきてよ。ぐらいじゃなくて、ちゃんと被害額だせよ」
「はい」
「去年との利益の差額を出して、納得させろよ」
「はい」
「払える金あるのかどーか、保証人は親なのかな? そこ行くのかどーか、前科つけたいのかどーか、ちゃんとやれ」
「はい」
隣に聞こえることはないだろうけど、少しだけ声をひそめた。
「あれ親元だろ? 全くもってないわけじゃないだろ?」
「たぶん」
「ちゃんと確認してよ。彼のためにも警察沙汰にしたくないでしょ? 未来ある若者に前科つけたくないでしょ? ないならさっさと親のとこ行って、どうするのか聞かないと、いい?」
手を振って、隣に戻るように促した。
面倒くさいからね。できたら、被害額+迷惑料を払ってもらって終わりにしたい。
とちくるって、以前に「弁護士」とか呼ぶ奴いたけど、それって、かえって余計に支払う羽目になってない? なんてこともあったよね。
まぁ、毎日、何かしらいろいろある。
むかつくこと。楽しいこと。イライラすること。悲しいこと。
でも、これが経験値としてたまっていくわけだし。次回にいかせばよいわけだしね。
僕はカードゲーム会社を解雇されたあと、しばらくはボーっと過ごした。約10年、カードゲーム以外、何も考えなかったから、何をしたらよいのかわからなかった。
同業他社の面接を一度だけ受けた時に、「狭い業界だから難しいかも」とのアドバイス。執行猶予期間でもあったから、大きな会社は難しいとは思ってたけど、そっか、この狭い業界では居場所はないか。
そんな感じで、僕は全く業種が異なる運送業の仕事に就いた。身体を動かして、毎日へとへとになりながら、部屋に山ほどプールしてあったカードをオークションで売ったり。そしてまた、買ってしまったり。
で、執行猶予が終わったころに、性懲りもなく、僕は再びカードゲーム業界へと戻ってしまった。
業界が右肩上がりの時期でもあって、ラッキーでした。
時代が携帯電話からスマートフォンになり、メルカリで個人間の取引が盛んになって、ネット販売だけでも成り立って、そんな感じで調子に乗って、僕はリアル店舗も出すことができたわけ。
今日の出来事は、そんな中でのひとコマでした。
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