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次の講座の日、私はドキドキしながら静江さんと顔を合わせた。しかし静江さんはいつもと変わリない様子だった。
私に笑顔を向けてくれたし、会話も普通にしてくれた。講義にも熱心に耳を傾け、まるであの日の別れ際に言った言葉など忘れてしまったかのようだった。
この日も二人で駅まで歩いた。歩きながら私は(まあ、あれは静江さんにとっては何気ない一言だったのだろう・・)と考えながら今日の講義の事など、当たり障りない会話をした。
しかし、ホームでいつもの様に電車を待っていると、少し思い詰めた表情で静江さんはこんな事を言った。
「あたしもね・・読んだの・・官能小説」
私はまた意表を突かれどう応えてよいか分からず、ただ静江さんを見つめた。濡れた静江さんの瞳が私をジッと見る。
互いの視線が絡み合い、何秒かの間私達はホームで見つめ合ってしまった。
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