0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
最果ての荒野
男は一人、荒野を歩く。
踏みしめる砂は軽く、吹く風に乗って男の旅装束に打ち付ける。
「…随分、見違えたな」
男は立ち止まり、帽子の鍔をわずかに上げて周囲を見る。
記憶によれば確かにここは、かつて人の営みがあった場所だったはずだ。
風が一層強く吹き、砂を巻き上げる。
まるで男の帰還を拒むように、彼をこれ以上進ませまいと吹き付ける。
「何があった…?」
荒れ果てた荒野を、男は進む。
この先に、答えはあるのだろうか。
◆◇◆
荒野の中に、少女がいた。
少女は砂の吹く中、この荒野の真ん中に微動だにせずに立ち尽くしていた。
「…そこで何を?」
男の問いに、少女は彼の方を見て微笑む。
「何もしていません。ただ、私はここで生まれて、ここで生きています」
「この荒野で?」
「…かつてはここも、僅かですか人が住んでいました。今はもう、みんな旅立ってしまいましたけど」
少女の無機質な声色から紡がれた言葉の意味が分からないわけではなかったが、男は彼女の傍らに荷物を下ろす。
「…しばらく、ここにいても?」
「はい、心行くまで」
「ここはどんな場所だったんだ?」
「紡ぎ手が集う場所でした。違う世界に生きて、同じ時を生きる若人達が…」
「そいつらは、今何処に?」
少女は首を横に振る。
「旅立った、か」
「はい」
「………」
「……あなたも旅人でした」
「……ああ」
「………」
風が止む。
砂嵐に阻まれていた少女の姿が鮮明に映った。
「ーーああ」
「ーーやっぱり」
男と少女は、ようやくはっきりとお互いの顔を視認し、同じように目を細めた。
「ーーお前だったか、」
「ーー私ですよ。◯◯さん」
◆◇◆
呼ばれた名は、数多の世界、数多の地平線を旅してきた男にとっては懐かしい名だった。
最後にここを後にしたのは何時だったか。
今、こうして戻ってきたのは、果たして偶然なのか。
"かつてこの世界の住人だった男"はーーーー
最初のコメントを投稿しよう!