ビリジアン

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クルーズ旅行にはいつも一人で参加する。自由気ままに過ごせるのがいいのだ。私が部屋にこもってずっと絵を描いていても、誰にも文句を言われない。だけど、二週間近く誰とも話さないのも、それはそれで寂しい。そんな時は、自分と同じスタンスで船に乗っている人を探す。初めて出会った人に今日のディナーご一緒しませんかなどと誘うのも、船の上ではありなのだ。とても気楽で素晴らしいと思う。まあ、同席するのは気が合う人ばかりとは限らないのだけれど。 私がディナーのテーブルに着いておしぼりで手を拭いていると、見覚えのある人物がにこやかに手を振ってこちらにやってきた。昼間に絵の具を拾ってくれた男だ。 「お一人ですか?ご一緒しても?」 男は私が返事をするよりも早く、椅子の背を引いた。私は気が進まなかったが、断るのも面倒なのでいいですよと返した。 何を頼みますかと聞かれて、私はメニューから適当に写真付きのものをいくつか指差した。 「こんなのも美味しそうですよ。」 男が指差した料理名には写真がなく、長々と何か説明が書かれていた。 「私、料理はどんなものなのか想像できないと怖いんです。写真が付いていれば一目瞭然でしょう。」 「そうですか?材料やなんかも書いてありますから全く分からない訳ではないですし、多少想像の余地があったほうが楽しいと、私は思いますけどね。」
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