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注文した料理が運ばれてくるまで、私は柄にもなく感情的になった。
男は日々の出来事を何でも書き残すのが習慣だという。趣味で旅行記も認めている。その話の流れで絵画を引き合いに出してきたのだ。絵が切り取るのは一瞬だが、文章なら時間の流れまで記録しておくことができると。
絵画だって雄弁に前後の出来事を語っているものだってあると私は反論した。
そして言葉の方が不自由だと述べた。例えば「青い海」という言葉から想起するのは、過去に自分が見た青色、海の情景――すなわち、自分の経験の範囲を出ることはない。絵画なら、画家の見たものをダイレクトに伝えることができる。男は感心した様子で私の話を聞いていた。
ウエイターが料理の盛られた皿をテーブルに並べていく。美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。食事はクルーズ旅行の醍醐味だ。
私は辛いものが好きだ。だからタイ料理でおなじみの青パパイヤのサラダを頼んでいた。唐辛子のソースがかかっていて見た目にも辛そうだと思うのだが、男はそうとは知らず、迷いもなく口に入れてむせ込んでいた。それがちょっとおかしかった。
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