かいちょーさんとふりょーくん②【完】

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「はっ……すまんな。感謝するぞ、黒澤……黒澤?」 「きゅぅぅ~……」 「く、黒澤が死んだ!?」  目眩が収まった明菜は、いつもツッコミを入れてくれる黒澤が反応を返さないことに疑問を抱き、ようやく自分の下で気絶していることに気付いたようだ。  意識がないので死んだと勘違いしたらしく、珍しく顔面蒼白で黒澤の肩をガシッと掴みガクガクと揺さぶる。  意識のない人を揺らしてはいけない。そんな常識すら失念するほど、常に真顔で表向きクールな明菜が、オロオロと取り乱している。  それほど黒澤が大事なのか。  微笑ましいが今は落ち着いてくれ。  クラスメートたちの願いは届かず、黒澤の顔色が見る見るうちに土色になっていくことに気づかない明菜。  いつになく焦る明菜に「あの、それ気絶してるだけです……」と言える勇敢な生徒は、やはりここにいなかった。 「黒澤、死ぬな……! 生徒会長の許可なく死ぬなんて許さんぞ、帰ってこい……っ死ぬな、頼む……っ」 「……ぐはぁ……」 「黒澤の血の気が消え失せた!?」  当たり前だ。  思いっきりガクガク揺らせばそりゃあ血の気も消え失せる。  しかし明菜はついにジワリと目元を潤ませ、黒澤を力強く抱き寄せたまま「黒澤、黒澤……!」と映画のワンシーンの如く懸命に呼びかけ続ける。  必死なのはわかるが可哀想とも思えず、ただただ早く目を覚ましてくれよボス、と願い立ち尽くすクラスメートたち。  するとほぼ強制的に意識を引っ張り出された黒澤が「うっ……」と小さく呻きながら目を覚ました。 「! く、黒澤ぁぁぁ!」 「げほっ、ぐはっ! はぁ!? はぁぁ!?」  目を覚ました途端想い人に半泣きで名前を叫ばれながら抱きつかれ、混乱を極める黒澤。わけがわからない黒澤。  クラス全員わけがわからない。  というか明菜が現れてからずっとわけなんてわかっていない。たぶんないと思う。満場一致で確信している。  ただ一つだけ、理解した。  宝の持ち腐れ情報だが……明菜 弥生は、生徒たちの独断と偏見で決められる学園の顔面人気ランキングで、三年連続総合一位のイケメンである。  特別クラスである各学年のF組は投票、出場ともに除かれるが、それでもかなりの生徒数を誇る学園だ。  その生徒たちの過半数が選んだ学園のトップイケメン。それが生徒会長。 「は、っお前が生きていて本当によかった……怪我はないか? 黒澤……」  やたらめったらキラッキラ。  それはもう、乙女ゲームのセンターを飾るヒーローじみた輝きである。  コテコテの美形故にワイルドさでは黒澤に負けるが、学園の女系(たまに男系)たちに大人気の持ち腐れた容姿。  それを間近に迫られ、なぜか凄く真剣に身を案じられ、しかも好きな相手。 「お、おま、ぉぉ……っ」  純情ヤンキーこと黒澤は状況もわからず顔を茹で蛸の様に真っ赤にして、人語を喪失した。
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