ヤギ系彼氏が生態系を崩しそうでヤバイ【完】

4/5
前へ
/368ページ
次へ
 喰えないと有名な飛揚さんの素が見れたので、俺はルンルンとご機嫌にシチューを頬張る。  いやはや、珍しいもんが見れた。  ほっぺた真っ赤にしちゃってまあ。  耳がぴくぴくと動く。  俺の耳もご機嫌らしい。 「おい、いい加減無視すんな」 「会長さんちーと食うの早いんすよ。今は俺のシチュータイム優先してて」  そう言うと、俺の目の前の席に勝手に座って勝手に食べて勝手に食べ終わった会長さんは、パクリと黙った。  素直でよろしい。  なでたらキレられた。なんなんだ……。  さてさてヤギさんお食事中。  ナウローディングのあと。  カラン、とスプーンを空になった器に置いて、会長さんを見る。 「どしたん? てか集会ん時重点的に俺見んのやめてくださいね? すっげ説教されてるみてえじゃんやだわぁ」 「あ? バレてた!? い、や見てねえし、全然見てねえから」 「バレバレよあんた。草食はそうゆうの敏感だかんな。ふっふーん」 「……。……まあ言いたいことがあっただけっつー」 「ガン見る必要性皆無」  視線をそらしながら、ぼそぼそと会長さんは言葉を紡ぐ。  そういえば俺と視線合わせたことあんまないよな、この人。  いつからだったっけな。  もしかして嫌われてんのかも。  うぅ、あぁ、とぶつくさ唸る彼を見つめて首を傾げる。目が合わない。やっぱ俺のこと嫌いって話か?  しばらく唸ったあと、意を決したのか会長さんはようやく口を開いた。 「あの、あのよ? 俺のこと横抱きにしたことあったじゃんか、お前」 「ん? まあね。割と力持ちなんで」 「そこでお願いがある」 「なんでっしょ」 「俺の王子様になってくれないか」  ……。……オウジサマ?  真顔で告げられたお願いが理解できず、俺はキョトンと会長さんを見返す。  顔はいたって真剣だが、会長さんは真剣におかしくなっているのだろうか。えっと、熱ある? 酔ってんの? 「恋人になれってことですか?」 「違う王子様だ」 「あれわかんないなにもわかんない。王子様ってどうやってなんの。どっかの国に婿入りすりゃいいのか俺。王子様になるって特異な謎かけですかね」 「いやいや、恋人は恋人だろ? 王子様は王子様だ」 「なるほど、別物ね。んじゃ恋人に許可取ってからなりますわ」 「おう。頼むぜ」  とりあえず危険はなさそうなので頷くと、会長さんは丸いライオン耳をピコピコと動かして喜び、くれぐれもよろしくと喉を鳴らした。  よろしくっても、言ったら会長さん肉食獣に噛まれるかもしんねーぞ?  王子様がなにかも王子様のなり方もわからないけど、内容によっちゃ俺はあいつの餌になる気がするけどな。  独占欲の強いあいつは俺が他のやつの王子様になるなんて、許可するわけないような気もするしな。 「……。こりゃ歯形覚悟かも」  フンフンと機嫌よさげな会長さんをながめつつ、俺は望み薄なお願いチャレンジにうーんと唸った。   ◇ ◇ ◇  さてさて。ランチのあとはごろごろするため寮にでも帰るか、とナイスな計画を立てて廊下を歩く。  すると階下で妙な光景と出会った。  んん、野次馬がいっぱいおる。  なんだなんだ。面白いことなら混ぜてほしい。やっほーい。  ひょこっと木に上って顔を出し、人混みの真ん中を覗き込むと──そこでは見覚えのあるラブリーふかふかもふもふワンコと三匹のヤギのがらがらどんの長男みたいなヤギが、なぜかガチンコタイマンバトルをしていた。  ちなみに二人とも俺のご存知さん。  んんー? なにやってんだ? 「ぅおーい! ボスー! 大神(おおがみ)ー!」 「は!?」 「あ!?」 「どーん」  大きく声をかけながら、とりあえずバトルの真ん中に飛び込む。  で、向かってくるボスの全力の突進をタンッ! と背中に手をついて軌道をズラして躱し、驚く大神の拳をガシッ! と手のひらで受け止め、二人の間でニッコリ笑顔。にこ〜。  草食動物の無害なフルスマイルでなごまないやつはいないだろ。  だけど微笑まれた二人はぽかん、と口を開けて、俺を見つめるのみだ。  ……なにぃ、失敗か? 「あれ、なごまね?」 「なごまねぇぇぇぇぇ! てかなんでヤギ、なんっ、おっ、ヤギぃ!?」 「次男てめっ、いきなり邪魔すんなよおおおー……!」  絶叫する大神と、悔しそうなボス。  ボスは俺、ヤギ種のボスだ。  ツノも立派で体も大きい最強のヤギさん。あだ名はもちろんがらがらどん。ボスならトロールも一突きだ。  そして俺を見るとなにもしていなくても赤面しなにかしても赤面し基本べったりくっついて離れなくなるかわい子ちゃんこと、ふわっふわでもっこもこの超魅力的なしっぽと耳を持つワンコこと──オオカミ種の大神。  大神は俺の恋人だ。  オオカミ種なのに群れずカーストにも従わない問題児なので怖がられてるけど、俺にはかわいいでしかない。  顔を真っ赤にしてムシャクシャとぶすくれているのは、ボスとの決闘をまた邪魔したからだろう。  いつも喧嘩をしている。  ボスってのは強いんだぜ。大神はボスじゃねーけどかなり強いからな。  双方デカくて喧嘩好きで無駄にイケメンな問題児として有名だからよく目立つため、あの人だかりだったわけだ。  理由はよくわかんねぇけど、お互い気に食わないらしい。  まあヤギとオオカミなんて天敵だしな。俺と大神が珍しいんだもんな。
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1078人が本棚に入れています
本棚に追加