ヤギ系彼氏が生態系を崩しそうでヤバイ【完】

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 気が合うような感じすんだけどな〜、と考えていると、不満気なボスがうりうりと頭を押しつけてきた。 「なんすかーボス」 「次男んんんー……俺があいつに勝てば必殺技教えてくれるっつったろー? なんで邪魔すんだよぉ。俺のウルトラスーパーアタックで勝確だったのに」 「だってボスと大神がガチバトルしたら両方死にかけるじゃないすか。いやですよそんなん。俺の大事な人が喧嘩で死にかけとか笑えねぇの。わかった?」 「! おい、おれ大事な人なのか!」 「ん? そりゃーボスっすから」 「おおおー……!」  なぜか感激したらしく、目をきらきら輝かせるボス。  ボスに飴玉を贈呈すると、両手をあげてにまにま笑いながら去って行った。流石子ども。もう忘れてら。  喧嘩、ダメ絶対。平和が一番!  羊種じゃないけどな。  うっし、万事解決じゃい。  さーあ大神連れて当初の予定通り寮に帰ってまったりするか──って。  肝心の大神が真っ赤な顔で眉間にしわを寄せ、唇をかみしめてうっすら目に涙の膜を張って震えていた。  な、なんでさ!? 「お、大神どした? どっか痛いの? もしか怪我したのかっ?」 「ヤギぃ……ヤギぃ……」  ヒンヒンと泣き出した恋人に焦りよしよしと抱きしめてなでてはみるが、しがみついて震えるばかりの大神。  しかしここはまだ大衆の面前だ。  ううん、ヤバい。 「ちょっと、我慢しててくれな」  俺はコアラ状態の大神をひょいと横に抱えて、全力でダッシュした。  なんかこう、今日忙しくね……?   ♢ ◇ ◇  in俺の寮部屋。  の、ソファーの上。  大神を抱えたまま廊下を走り抜け部屋について今に至るのだが、大神は俺にしがみついて離れてくれない。だっこちゃん状態のままだ。  うーんかわいいけど、これじゃ顔が見れない。それはだめよな。 「大神大神、俺にお顔見せたげて」 「……いやだ。ぜって、目ぇ真っ赤だし……俺ァ今、不細工だ」 「んー? 大神が急に泣くのはいつものことだから大丈夫でーす。問題なーし。泣き虫オオカミちゃん」 「な、泣き虫じゃないっ……う」 「はいこんにちわ」  つんつんと頭をつつきながら少しからかったふうに言うと、思わずと顔をあげた大神とばっちり目があった。  ご対面記念にお得意和みスマイルをお見舞いしてやる。  唇をもごもごさせて情けない顔をする大神は、自己申告通り目を赤くしていた。  あーあ、かわいいおめめがもったいないな。もう。泣き虫だからさ。泣き虫でいいんだけどさ。擦ったら目ぇ痛いのにこれはダメだよ。 「う、っちょ」 「ちゅー」  赤いのなくなれーって気持ちを込めて、瞼に唇を落とす。  なくならないならなくなるまで、何度も何度も慰めのキスを贈った。  大神は逃げようとするけどダメー。なにがそんなに悲しかったのかわからないけど、泣いてた子にはヤギさんキッス。  ふかふかの耳が俺のキス一回一回にぴく、ぴくと反応するのがかわいい。  しっぽはぶんぶん振ってるくせに。  もふもふしてんなぁ。  よしよし、ぽんぽん、と手でも背中をとんとんしてやると、しばらくして大神はすりすりと俺にすりついてきた。  機嫌が直ったみたいだ。  泣き虫わんわんだぜ。よいこ。  ウサギ種みたいだった目も腫れがひいたみたいでちょっと赤いぐらいだ。  復活した大神は、恥ずかしそうに俺の目を両手で隠した。 「はは、そんなんしたら見えねーよ? 大神のかわいい顔」 「見なくて、いいって……お前もう、かっこいいことするの禁止……」 「え、してねぇのに。ただのヤギだぞ? 俺。ビジュも別に普通で地味めだし、人によっちゃブサイク判定かも」 「ヤギは生物一かっこいい! し、するだろうがっ。かわいい言うし、チューしたり、なでなでしたり……あ、あまやかすだろうがっ」  大神は俺がかっこいいのだと忌々しげに説明し、わんわんと吠える。  そっか? 普通のことしてるぜ。  甘やかすのは恋人だから当然じゃね? 大神が人一倍照れ屋で、俺のこと好き過ぎなだけだと思うけどなぁ……。 「ってそいや大神、なんで泣いてたんだ? ほんとに怪我した? どっか痛くない? それとも気分悪い?」  そういえば、と思って口に出せば、見えないけれど俺の目を押える手がびくりと震えた。  やっぱどっか痛い?  俺、間に入るの遅かったか……?  そう思って、しくじった自分にあちゃあと肩を落とす。  しかしそんな俺の耳に、大神のしょんぼりとした声が聞こえた。 「……泣いてたのは、お、お前が……がらがらのこと、大事なやつだって言うから……」 「…………え。それで泣いちまったのか?」 「わ、わりぃかよっ!」 「いや悪くねぇっつかなんつぅか……お前かわいいな」 「かああッ!? か、かわいくねえッ! かわいくねえッ!」 「あだだだだっ、眼球もげる……!」  思ったことを言っただけなのにツンデレな大神は照れ隠しがバイオレンスで、思わず力が入ったらしい手で危うく眼球が飛び出すかと思った。流石の俺も眼球もがれたらちっと困るぜ。  ヤギが悪い、ヤギがかっこよすぎて辛い、ヤギ好き、ヤギしんどい、と大神はブツブツ文句を言い続ける。  きっとすごく照れている。  うーん。顔が見てぇ、です。 「なあ大神、そろそろ手ぇ離して? 顔見たい。んでね、安心おしよ。ボスは確かに大事な人だけど、俺が恋人として大事にしてるのはこの世でお前だけだからな」 「なッ、……ば、バカッこっち見んな!」 「え? えええぇぇ……離してくれよぉー。恋人が目の前にいんのに見れねーとか拷問よ? 俺だってオスだし、ずっと大神見てたいくらい好きだし」 「~~ッ! だからそういうことぽんぽん素面で言うんじゃねぇッ!」 「大神さん、ヤギは遺憾の意を示します」  ──結局、大神は手を離してくれなかったので、代わりにめいっぱい抱きしめることにした俺であった。 「あ、かくかくしかじかで俺会長の王子様にならなきゃいけねぇらしいんだけど、いい?」 「わかった会長闇討ちしてくる」 「なにがわかったのか詳しく」  了
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