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気に食わなさが限界突破しそうだ。
ことの発端は、今朝のことだった。
なにがどうしたか、俺はファンタジックな魔界なる世界に三初と共に呼び出され、魔王とその嫁に挨拶をしろと言われたのだ。
誰にって?
天の声とか言うやつにだよ。
つか誰だチクショウ。朝の情報番組かクソが。俺は理不尽に指示されると断固文句を言いたくなるんだ。
けれど理不尽は往々にして理不尽なので、俺はあえなく異世界詣で。
結果がこれである。
マジで殺してやりたい。神殺し上等だ。
「ええと……たいへん申し訳ございません。こちらとしてもお席をご用意したいのですが、なにぶん不思議な力でここから動けず……膝抱っこの上下配置も固定されてしまいまして……」
「なんで固定なんだよチクショウッ! ほんとに不思議な力で立ち上がれねぇんだよクソが! もよおしたら責任とれんのか死神がッ!」
「お詫びのしようもございません」
理解できない状況に我慢ならず、思うままにがなり散らす。
すると部屋の広さに不釣り合いな小さいテーブルの向かいで、大河が申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
いや言いたいだけだから謝んな。
素直に謝られるとは思わなかった俺がつい文句を止めてしまうと、頭を下げた大河がスッと顔を上げた。
それからこれっぽっちも不快感を感じていない純粋な〝申し訳ねぇ!〟という気持ちオンリーな瞳で、じっと俺を見つめる大河。
「御割さんのおっしゃる通り……せめて動くことができれば代案があるのですが……」
「うっ……」
──黒ラブ系男子かテメェ……!
キューンと鳴き声が出そうなしょんぼりとした困り顔を見せられた俺は、こうなると黙るしかなかった。
サムライのような面差しのくせに、この大河という男……ちっとも我が強くない。
気遣い百パーセントでできている。
俺の周りとは天と地の差だ。
見た目はサムライ。謝る顔は黒ラブ系。その上中身はまるでハムスターじゃねぇか。これがギャップ萌えってやつか? なるほどな、まぁいいやつだわ。
強いて言うならその取引先を相手にするような対応はやめろ。
仕事を思い出して、俺なんでこんなとこでなにしてんだ? って正気になっちまう。マジで。俺なにしてんだ?
「あー……」
なんにせよ、俺の負けだ。
こういうひたすらに尖らない丸い人間が相手だと、俺はあまり強く言えない。
ギュウ、と三初の肩を掴んでいた手の力を緩めて、肩の力を抜く。
まぁ、ちゃんとわかってんだぜ。別に大河や魔王が悪いわけじゃねぇんだ。
魔王は謎に三初と見つめ合って言葉なく腹の探り合いをしているが、こいつらは置いといて。人外どもめ。
ガシガシと頭を掻き、唯一まともな大河に向き直る。
「別に、お前らには怒ってねぇよ」
「そうですか?」
「あぁ。俺はちょっと口が悪ィんだ。目つきは素で、キレてるからってことじゃねぇよ。あとまぁ、職場の仲でもねぇだろ? 敬語はなしでいい。トシもあんま変わんねぇし……仲良くしようぜ。大河」
「! あぁ、ありがとう。そう言ってもらえてとても嬉しい。俺も御割さんと仲良くしたい」
「おー」
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