不老不死者たちの幸多からん日々へ※【完】

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「そうだなぁ」 「ン、ァ」  内心オロオロと焦燥するカルメシーを、ネグロがまた初めと同じように抱き締めた。  腕の中に閉じ込めたまま、二人折り重なるようにベッドへ倒れ込む。  そして握りしめていた金の粒をそっと取り上げられ、無造作にサイドテーブルの上へ置かれた。  ネグロはカルメシーの髪をぽんぽんとなで、そっと髪に口づける。 「カルメシー。俺は金に困ってねぇから、あれはいらねーよ」 「……そ、か……でも、そしたら俺は、ネグロになんにも、やれね……で……」 「んー……」 「……、……いらなくなったら、俺は……またひとりぼっち、だろ……?」  すりすりとネグロの胸に額を擦りつけながら、覇気のない声で吐露する言葉。  ひとりぼっちは寂しい。  退屈で、何度も死んでしまうし、心細くて、泣き出してしまいそうになる。  自分にひとりぼっちという言葉を教えた人になぜと尋ねたくなってしまうくらい、ひとりぼっちは恐ろしい。  それはもう嫌というほど味わった。  それよりも、ネグロの温かい体温を味わっていたい。  だから、飽きられないように、見放されないように、数少ない対価を捧げて、気に入ってもらいたい。  そんな下心の煮凝りだ。  ネグロはなにが欲しいのだろう。 「わかんねーけど、俺たぶんお前を嫌いになんねーや」  未だに舌ったらずだが話す行為に慣れ始めたカルメシーが胸の内を語り終えると、ネグロはユルリと感情の読めない笑みを浮かべた。  ネグロの腕の中は温かい。  ネグロが話すたびに吐息が髪を掠め、カルメシーは目を閉じる。 「……つぎ、わかんね、よ」 「不安か? んじゃ、いらなくなることがあったら、お前のことを食べてやろう。傷は治んのか? わかんねーけど、もしそうならないならお前は死ねないから、俺と一つになって生きると思う。したら、ずっと俺らはふたりぼっち」 「それは……しあわせだ。でも、俺はなんも、してやれない」 「バーカ。しなくていいだろ。俺には腐るほど金も時間もある。お前はただ俺と同じく生きてくれればいいさ」 「……ネグロは、へんだ。ご飯とキラキラは、こうかんなのに。ネグロは、なにもあげてなくて、いろいろくれる」 「べーつに。お前がなんだか柔らかいから、俺もお前にしてやりたくなる。お前が変だから、俺も変なんだよ」  瞼の裏を眺めるカルメシーの耳に、適当なネグロの声が優しく聞こえて、眠りを誘った。  変なネグロが、変なカルメシーを見つけて、幸せな暮らしを始めるということ。きっとそういうことだろう。 「わかんねぇ、けどわかった」 「ん。じゃあ寝ようぜ。もっと俺にくっつけ」 「うん」 「もっともっと、ひとつになるくらい」 「うん」 「くっついてりゃ、なんにも怖くねぇよ」 「うん」  その日は二人、ぴったりと寄り添いあって眠った。  二人とも変わり者なので、深くは考えなかった。寂しいことも終わらないことも、なにも考えない。  ただ、一緒ならいいか、と考えた。  そんなふうに目の前の安寧を抱いて──不老不死者たちは、幸多からん日々を繰り返すだけなのだ。  了
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