恋しい人と手を繋ぐ、たった一つの確実な方法【完】

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 【手順4 喪失を知りましょう】  俺は死んだ。  あの日、脱線事故で死んだ。  俺は幽霊ともいえない魂の残りカスになって現世にいた。  家にいてうろついてたって誰にも見えない。唯一見えたのは、死ぬ前日だった隣のジジイだけだ。  俺は死んだ。  生きていないのだ。  会おうとしても会えないし、どうあがいても想っても届かない。  なのに──弟は俺を諦めなかった。  だから、壊れた。  弟は俺が死んだと知ったその日から、何事にも生き物らしい意欲が湧かなくなってしまった。  最低限でしか動かない。  気をつけないと飯も食わない。  機械のようにユラユラと学校に行き、帰ってきたら部屋に篭もって、あとは日がなぼんやり腑抜けている。  葬式の時の絶叫が嘘のようだ。  弟は誰よりも悲痛に泣き叫んで、俺から兄貴をとらないでくれと、世界の終わりでも来たかのように棺桶に縋りつくから、みんなが困った。  それがシンと静まり話もしない。  なにを言ってもほとんど反応しない。  たまにふらりと一人で出かけて行って、数日帰らないこともあった。  そういう時はやせ細った弟をそのままにしてある俺の部屋のベッドに寝かせると、奇妙なほど落ちついてまんじりともせず長時間の眠りにつく。  見えないことをいいことに観察する俺も、夢の中はわからない。  夢の中は楽園なのか、俺と遊んでいるのか。そうだと僅かばかり救われる気もしたのだ。  だけど目覚めると、コイツはいつも悲劇的に泣いた。  あの時と同じ。うわあぁぁぁん、うわあぁぁぁんと子どものように。声を大きく、わざと誰かに聞かせるように。  うわあぁぁぁん、うわあぁぁぁん。  聞こえている。  だってずっとそばにいるから。  泣くな、泣くな。  みっともない、大の大人だろうが。  泣くな、泣くな。  弟は、泣き声に気づいた誰かが部屋に来るまで……ずっと、はぐれた心で泣き続けた。
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