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初対面の来訪者である俺に対しても真摯に対応する大河に報いて、自分の悪い癖を説明して歩み寄る。
普通に友好的な返事がきた。
ああして怒鳴ったのに、大河は俺を怖いと思っていないらしい。むしろタメ口でいいと言うと、嬉しげに頷く。
(へぇ……珍しいな)
少し感心する。
こういう平和系のやつに怖がられなかったことは、あまりない。
ゆるゆると口元を緩めて朗らかに笑う大河に、俺はなんか毒気を抜かれちまうな、と釣られて笑いかけた。
おーおー。
癒し系だ、癒し系。
やりやすいぜ。たぶんコイツとはイイダチになれる気がする。俺の周りにいないタイプで新鮮だし、ちょびっと浮かれちまう。
そうやって俺と大河が誤解を解き、抱かれる側(イスの座り方な)同士で親交を深めていた時。
「……フン。なかなかやるじゃねぇか、ミハジメ・カナメ」
「あらら……光栄だね。アンタとは結構気が合うと思うなぁ、魔王様」
ちょうどリアル魔王とメンタル魔王のアイコンタクト会議が終わったらしく、二人してニヤリ、ニンマリと含みのある空気感で笑いあった。
どうやら抱く側(イスの座り方だっつってんだろ)も親交を深め終えたようだ。
つかなんで通じてんだ。
アイコンタクト。
ゆったりと顎と口角を上げて目を細め暗黒系の笑みを浮かべるガチの魔王相手にアイコンタクトをしていた三初を、俺はドン引きして見つめる。
お前人間だよな?
なんで魔王とわかり合ってんだよ。人間じゃなかったのかテメェ。
どこまでぶっ飛んでいくつもりか知らないが、魔王と気があってどうしたいのだろう。世界征服でもするのかもしれない。
世界のために早くコイツを殺したほうがいいんじゃねぇか? 割とガチで。
俺がドン引きしていると、同じく大河も魔王コンビに疑問を抱いたらしい。
「アゼル」
「ン゛ッ……!?」
大河はきょとんと首を傾げて魔王の頬に手を寄せると、自分のほうへ振り向かせてじっと魔王を見つめた。
耳に指を絡めているのはわざとか? 大河。天然か?
大丈夫かコレ。
魔王の顔色が逆上せたトマトみてぇだぞ。もういっそ風邪じゃねぇか?
「くっ……! こ、この不意打ち胸キュンマシーンがぁ……!」
「うん? いやな、アゼルは三初くんとなんの話をしていたんだ?」
「あ? 嫁自慢大会だぜ」
「!?」
待てコノヤロウ。
嫁自慢大会ってなんだ。
「そうか。勝ったのか?」
「惜しくもドローだ。ミハジメはなかなかイイ趣味をしてやがる。ミハジメとオワリのは、名前もちゃんと聞こえるしな」
「そうかそうか」
いやそうかそうかじゃねぇだろバカ。おかしいだろ。嫁自慢ってなんだよ。夫夫とはいえお前らは男同士で三初は結婚してねぇんだぞ!? どっちも夫じゃねぇか!
俺は内心でツッコミを入れるが、大河は魔王もツッコミを入れない。
二人の対面で話を聞いている俺だけが嫁云々にビクッ! と肩を跳ねさせ、わなわなと震えている。
いやおかしい。
なにかおかしい。てか全部おかしい。
俺は片眉を上げて「ん? なんですか」と俺を愉快に鑑賞しているやにさがった三初の腹立つ顔と大河の顔を交互に見て、頭上に!?を飛ばした。
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