キス魔スパーキングデイ※【完】

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 ある日のこと。  以前と同じくリューオ、ユリス、タローとのランチタイムにて。  シャルこと俺は、もう二度と酒に溺れないと決めたのにも関わらず──キャパシティを超える飲酒をしてしまった。  どうやら、耐性のない人間にしか効果のないアルコールの塊のような木の実が料理に入っていたらしい。  聖剣の勇者であるリューオは刺激物を中和できるので効果がなく、ただの異世界人である俺だけが、へべれけシャルさんとなってしまったのである。  そんなことは知る由もない俺。   実は絡み酒のキス魔とかなり面倒くさい酔っ払い。かつ無自覚。  酒に溺れると自分の大事な人がみんなかわいく見えてしまう。  そしてかわいく見えるのでそれを伝えるべく、当然だがキスをしかける。  しかし今回は二度目だ。  そうやすやすとかわいい人たちの唇は奪えない。  愛のままにかわいいと好きを伝えようとすると、リューオは最早触らせもせずコンマ数秒でユリスとタローを抱えて逃げ出してしまった。  俺はすっかり拗ねモードだ。  フラフラと部屋の外へ歩き出し、カワイコちゃんたちを探す旅に出る。  まずは働き者のマルオを筆頭にしたカプバット集団と出会い、キスの乱打。  愛らしい単眼に口付け、牙がズラリと並んだ口元にも唇を押し当て、マルオチームはすべからく通り魔キッス。  キィキィと鳴いて喜ぶマルオたちに、大満足の俺。  その次出会ったゼオとキャットの副官コンビには、先手必勝。  かわいいかわいいキャットの顔を引っ掴んでむっちゅー、だ。  唇を奪われたキャットは「師匠ッ! 流石にそれは高度すぎますぞぉぉぉッ!」と叫び、耳まで赤く染ってその場にバターンッ! と倒れてしまった。  変だな。かわいい。  おまけに手の甲にもキスをしよう。ふふふ、キャットはかわいい。  純情男子な空軍長補佐官さんは実に愛らしい……が、一連の流れを不動の無表情で観察する陸軍長補佐官さんは簡単には許してくれない。 「ゼオ、キスをしないか。お前はすごくかわいいぞ。だから、俺はちゅうと……シたいんだ、ゼオ……」 「いえ結構です。どう見積もっても未来がクソミソに面倒なので」  身長が同じくらいなのでギュッと抱きついてしまえばすぐにキスができると考え、甘い声で囁いたのに、ゼオは間髪入れずにお断りした。  本当に一瞬の迷いもなかった。  腰を抱いたのにだぞ? そんなところもかわいいなお前は。  強引にイこうとすると、頭を肩口に押しつけて阻止された。  視界が軍服一色だ。念願叶わず。  ただクンクンと匂いを嗅がれて「酒が混ざってるほうが俺の好みの味ですね」と血液の味を予測されたので、別に嫌なわけじゃないらしい。  ゼオは確か、お酒に溺れた中年女性の血液が好みだったか。  酔って多少好みに近づいたな。  しめしめ。ならば酒臭い俺と是非ベロベロキッスを……! 「あ」  キラリと悪代官顔で悪いことを考えた瞬間、ベリッ! と俺を引き剥がしたゼオは、気絶したキャットを横抱きにして遥か彼方へ飛び去ってしまった。  むむ。おしい。  難易度マックスのゼオの唇をもう少しで奪えたのに。  ちなみに気絶したキャットは俺のキスとゼオのお姫様抱っこのコンボを決められ、茹でダコのまま鼻血を垂らす幸福な死に顔を迎えていた。  かわいいキャット、早くゼオを落とせるといいな。応援するぞ。  しかし完璧にフラレてしまった俺は、不貞腐れ半分寂しさ半分、とぼとぼと肩を丸めて部屋に戻ることにした。 「……スー……」 「…………」  部屋に帰ると、そこには相変わらず窓侵入者ことガドがいた。  仕事が終わってなでられに来たのに俺がいなくて拗ねたのだろう。  我が物顔でソファーに寝そべりうたた寝をするガド。  その腹に馬乗りになる。  ギシッ、とソファーが軋んだ。  頬に手を当てコツンと額を擦り、そっと唇を近づける。 「ん……ガド……かわいぃ……」 「……んぁ?」 「かわいいのキス、しような……」 「ン。……ンッ?」  そして触られたことですぐに目を覚ましたガドが言葉を発する前に──ちゅ、と唇を塞いだ。  ふふ、いい子だ、ガド。俺の前で無防備に眠っているガドはかわいいな。
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