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「アゼル、あぜる……?」
「…………」
「ん、アゼル……俺はここ、だぞ?」
「……っ……」
ムギュ、と腰に抱きついてみた。
だってアゼルが俺に気づかないから、抱きついてしまうのは仕方がない。
腕の中でブルブルと震え始めたアゼルだが、やはりまだ無言のまま反応しないので、首筋に頬を擦り寄せる。
「っ、っ」
「アゼル……ふ、いちばんかわいい、ふふ。やっぱりお前が、だいすきだ。いちばん、な」
「~~~っシャル! この存在かわいい大罪人めっ!」
「あ、っ」
アゼルがかわいくてキスがしたい俺が、アゼルかわいいを嗜む。
ただそれだけなのに無視できなくなったらしいアゼルはついに噴火し、ヒョイと俺を抱きかかえてしまった。
うん……? いいぞ。全然大丈夫。あぜるに抱えられておれはうれしい。
「あぁかわいい、かわいいなぁ、かわいいなぁあぜるぅ」
「馬鹿野郎! 今日という今日は許さねぇ。二度目だぜっ? 俺の唇はお前のものなのにお前の唇が公共物だなんて容認し難い超常現象だっ!」
「おれのおまえがおまえのもので、んん? んんゆるせるぞ、うへへ、おれはおまえのもの……」
「やわやわ笑顔でふにゃふにゃ絡むんじゃねぇ! お前が喋ると俺の中の俺が折れそうになるから黙ってろ!」
「うへ」
ボスンッ、とベッドに下ろされた俺が意に介さずアゼルの首に腕を回してにへらと笑うと、アゼルはプンスカと怒りながらグルルと唸る。
もう夕暮れだ。アゼルは仕事が終わって帰ってきたのだろう。
それじゃあ、お疲れさまと、おかえりのちゅー。
「ちゅー……う? っん」
俺はいざ尋常に顔を近づけたのだが、アゼルは闇の魔力をモコモコと発生させ、俺の手を背中側でひとまとめに拘束する。
そしてベッドの上でポカンとする隙に、素早く唇を塞がれてしまった。
ん? キス、ん? いや嬉しいが。嬉しいが? 嬉しいならいいじゃないか。念願のキスだ。アゼルと。
「……ふ…ぅ……ン……」
唇を合わせるとともに熱い舌がヌルリと強引に歯列を割り、アルコール混じりの吐息すら奪うように吸いつく。
舐め、なぞり、啜り、我が物顔ですみずみまで味わう舌。
「……っぁ……」
アゼルの舌は、俺をダメにするプロフェッショナルなんだ。
唾液を絡め取ろうと舌を伸ばせば逆に捕まり、噛みつくように食らいつかれ、仰け反る喉の震えまで感じるほど、甘く意地悪い舐め方をする。
そうされると俺の頭は余計にぼやけ、自分が今どういう状況なのか、正しく理解する正気が焼ききれていく。
元々なかった正気だ。自覚なんてありゃしない。俺はアゼルに縋って、甘ったれた声でしゃぶりつくだけ。
「……っは、ぁ、ゼル、ちゅう……」
「あとでな。今日という今日はお前が俺のキスじゃねぇと満足できないように、記憶じゃなくて体に刻み込んでやる……!」
いつの間にかシャツのボタンを全て外されていて、腕を拘束されているせいで突き出すように晒した胸が剥き出しになっていた。手が早いな。アゼル凄い。
TL漫画のワンシーンのようなセリフを素で言っているアゼルは、言葉通りのことをする気らしい。
漫画のヒーローになるつもりなんて毛頭ないアゼルだが、うっかりそうなっているところもかっこよくてかわいいと和むのが俺である。
俺はアゼルになにをされてもイイけれど、できればかわいがりたい。いや、できなくてもかわいがりたい。
俺のアゼルが一番かわいい。
俺のアゼルは世界でいちばんだ。
「にこにこしやがって、この期に及んでなに考えてんだ」
「んう、っ」
「また悪さをしようとしてたな?」
アゼルはしどけなく開いた俺の唇に自分の指を突き込み、鎖骨から胸元をペロリと舐めた。
悪さをしようとなんてしていない。
俺はただアゼルをどうやってかわいがろうかという計画を、ウキウキニコニコで考えていただけだ。アゼルをかわいがるのはいいことである。
もじもじと身じろぎ計画を遂行しようとするが、手が動かない上に口をふさがれては満足に動けない。
その間にも俺の鎖骨から胸元、乳頭へと舌を這わせるアゼルは、片方を手でこねながら、もう片方を舌先でピンと弾いた。
「ぅあ、っ」
ビク、と背がのけ反り腰が浮く。
シーツの上でサンダルを脱がされたはだしの足が、きゅっと縮こまった。
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