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その日の夜。
夕暮れから行為を始めて深夜にようやく解放された時には、俺の意識はすっかり落ちていた。
泥のようにベッドで横たわっていたところ目を覚ますと、ちょうどよくアゼルが洗面所から出てこちらへ歩いてくるのが見える。
もちろん酔いは醒めていた。
例によって、酔ったことすら覚えていなかったわけだが。
うつ伏せに眠っていたからか、やけに重い体を起こそうと、両腕に力を込める。──が。
「アゼ、ぁっ……、っ……?」
ベショッ、と崩れ落ちた。
キョトン、と目を丸くする。
どうして俺は崩れ落ちたのやら。
てんでわからない。俺の筋力は壊滅的になくなったのか? そんなばかな。
めげずに再度起き上がろうと腕に力を込め、足も使って起き上がろうとする。
「っあ、く……っな、ぁ……っ」
しかし下半身にも力を込めた瞬間、不可抗力で締めつけた内部が背骨に甘い痺れを走らせ、バフンッ! と顔からベッドに倒れ込んだ。
……この感覚はよく知っている。
いわゆる、気持ちいい、という性的なほうの感覚である。
つまり俺は、ただ下半身に力を入れただけで、エロ的に感じてしまうような状態だということだった。
いやだったじゃない。
なぜだ。なぜこうなった。なぜ俺は崩れ落ちる感度になったっ?
なにがどうしてこうなったと混乱を極めていると、気づかないうちに俺のすぐそばにやってきていたアゼルが、ベシッ! と俺の尻を不用意に叩いた。
「シャル」
「ぁん、っ」
おかしい。俺の声帯がおかしい。
叩いただけなのに変な声が出たぞ。
脳内にクエスチョンマークを大量に飛ばす俺の尻を、アゼルは尚もパシパシと叩き続ける。
「くっ、ひ、アゼル……っ」
「お前は俺を煽る危険性を理解してねぇ。俺を舐めてんな? だからこうなるんだ」
「ぁ、やめ、っう、なんで叩くっ?」
「俺はかわいい由来も愛してる由来も全部お前だけだぜ。それをお前は……ッ」
「アゼ、っアゼル、ひ、ぃひっ……」
「今後は! 妬いてる俺をみだりにキュンとさせるんじゃねぇぜ!」
「やめてくれ、やめ、っんぐ、ぅ……ッ」
「見ろ! うっかり感度上げすぎて、シャルの尻を壊しちまったじゃねぇか!」
「ひぇ……っ」
お、俺の尻は壊れてしまったのか──!?
俺の脳内で小さな俺がザパーンッ! と波が打ちよせる崖に立ち、叫んだ。
どうやら俺の尻は、プンスカと怒るアゼルにペシペシとされるだけで腰が疼く、重大なバグを生じたらしい。
事後は触っただけで喘ぐ有様だったそうだが、持ち直したのだとか。
待て待て。
持ち直してこれか。
未来永劫ピタゴラススイッチのように尻を叩かれると崩れ落ちる体なんて、今すぐ丸くなって現実逃避してしまいたいアレはボディだぞ。
我に返ったアゼルは、ウニョウニョと血鎌を二本伸ばして俺を持ち上げ、慎重に俺を洗った。
敏感過ぎて指でかき出すことができないため、鎌のツタ部分のみを伸ばし、ニョロリと処理をする。
知らない間に触手プレイをされていたなんて、丸くなった上でコロコロと転がりたい。現実逃避も続行したい。
処理を終えたアゼルは、俺を寝かせてからガドが破壊した窓を直し、風呂に入ったところとのこと。
いやいや。
ガドが窓を破壊したことも知らなかったぞ。いったい何度目なんだ?
というか言ってることはわかるが、意味は全くわからない。
聞けば聞くほどなぜ俺の尻が壊されるに至ったのかは不明である。
「ぁう、はっ……け、経緯はわかったが……その、アゼル……」
話しながら尻をペシペシされるたびあっあと喘ぐオモチャ化していた俺は、ゼーハーと息も絶え絶えにプルプルとアゼルを見上げた。
「そもそもなぜ俺の尻が、卑猥なピタゴラススイッチになったんだ……?」
「ふん。それはお前がみだりにキュンとさせた魔王様こと俺が、お前の股及びその周辺を重点的に吸血したせいだぜ」
「なんで絶対にマズイことになるのがわかりきっているから暗黙に避けていたことをやっちゃったんだお前は……!」
なんてこったい! と頭を抱える俺に対して、ふんぞり返るアゼル。
筆舌に尽くしがたい乱れ方をさせられたらしい俺は〝旦那さんを妬かせてはいけない〟と強く再確認する。
「く、ぅぅ……今回は不可抗力だが……金輪際、俺はアゼルのいないところで飲酒しないぞ……!」
「クックック……! その意気だぜ。また俺なしではいられないカラダにされたくなきゃその殊勝な心がけを今後も欠かさず続けることだな。フフン」
「いやアゼルなしじゃいられないのはとっくにそうなのだが、尻を壊されるのは流石に困る……っ」
「ぶふっ、と、とっ!?」
──酒は飲んでも呑まれるな。
どうせ酔うなら、お前に酔おう。……でないと体が持ちそうにない。
了
殿! お察しの通り、木樫めはキャラクターを酔わせてひと味違う魅力(意味深)を垣間見せてみるのがたいへん性癖でございます(スッ)
リクエストありがとうございました!
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