かいちょーさんとふりょーくん①※【完】

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 ここは私立更科(さらしな)学園高等部。  社長や医者、弁護士、著名人。  とにかく一般より裕福な家庭のご子息たちを様々な誘惑飛び交う俗世から切り離し守ろうと作られた、小中高一貫全寮制男子校である。  窮屈さを感じないよう勉学にスポーツとのびのび学べる上に、寮部屋は追加料金によりグレードアップも可能。  食堂は飽きがこないよう充実のラインナップ。自炊者用にスーパーコンビニも完備。  封鎖的な空間が子どもたちの伸び代を縮めないよう組織運営を各自に任せ、生徒の自主性を重んじるフリーな校風。  生徒会はもちろん、部活や委員会は各生徒に権限を多く委任し、仕事の大切さや上に立つことによる責任感を学ぶことができた。  どこをどうとってもスペシャルな学園だろう。何不自由のない生活。  金に物を言わせた課金ブートキャンプの賜物である。  だがしかし、そんな自由な学園だとしても──不自由はやはりあった。  幼少期から周りは男ばかりである封鎖的空間に閉じ込められた生徒たち。  思春期になっても、身近に存在する人類は右も左もオール男。  となれば必然的に、そこにいるもので恋愛欲求を消化することとなるわけで。  そしてできれば、それは見目のいい者がいいわけで。  そうしていつしかこの学園には一時的にか真性かはさておき同性愛が横行し、容姿端麗な者には親衛隊なる似非ファンクラブができてしまったのだ。  非現実的だということなかれ。  むしろセクシャリティの問題に偏見を持たないウェルカムな感性が育つ、先進的なダイバーシティと言えよう。  閑話休題。  これはそんな学園で巻き起こる、バカとウブのハチャメチャな物語。  一人はポテンシャルおばけのパーフェクトセレブお坊ちゃん。  顔面チャンピオンと崇められているのにもかかわらずなにかと残念なバ会長様。  もう一人はいろいろあってグレたはいいものの軌道修正しそこね、そのままずるずると尖って生きてきてしまった思春期純情ヤンキー。  青春を謳歌する二人があーだこーだと紡ぐ、毎度馬鹿馬鹿しいスクール系ラブストーリーである。   ◇ ◇ ◇  キャーキャーと黄土色の悲鳴を上げる女系の生徒たち。  いつもなら微笑みの爆弾の一つでも投げ返すものを今日は見向きもせず──明菜(あきな) 弥生(やよい)はズカズカと早足で廊下を進んでいた。  学園の王である生徒会長、明菜がざわめく生徒たちへのファンサービスを怠ってまで一心に向かっている場所は、問題児を集めた不良クラスがある特別棟の屋上だ。  いくらいいところのお坊ちゃんと言えど、男にはグレる時期がある。  やや歪んだ手の早い奴らや、セレブコンプレックスを患った庶民出身者もいる。普通の外部生もちょっといる。  そういう男たちのための場所だ。  一般棟の生徒たちは、粗野で厳つい者が多い彼らを怖がっていた。
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