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「あはっ、あははっ、バムス!」
「「「っんなぁぁあぁあッ!?」」」
違った。
明菜は黒澤たちの頭上で、びょんびょんと高笑いしながら揺れていた。
その足に、太いゴムを巻いて。
「ふはっはっひはっ!」
「お前ぇぇえぇええぇッ!」
「黒澤ーッ!」
ゴムの伸縮性でびょんびょんしていた明菜がだんだんと落ち着き、ブラブラ揺れているだけとなって楽しげな笑い声を振りまく。
同じく黒澤も精神的に落ち着き、もうおなじみの様な絶叫をキメた。
なるほど。あの釣竿のように突き出た鉄棒は、バンジー紐をセットするための機材だったのか。──じゃない!
「黒澤ーッ! じゃねぇよなにしてんだよ死にてぇのかテメェはーッ!」
「は!? 会長!?」
「また会長かよーッ!」
「学校でバンジー挑むか普通!」
「こないだ家庭用打ち上げ花火アホほど買い込んで深夜に圧巻の花火大会プロデュースしたくせに着火係自分だから見れなかったって残り爆発させたとこじゃねぇか!」
「爆発の次はバンジー!? アンタいつか死ぬ! 絶対死ぬー!」
「なぁあの人バカほど美形だけど真性バカじゃね!? なぁバカじゃね!?」
「そうだよイケメンだけどバカなんだよ! バカの帝王なんだよ!」
「あぁクソ顔だけはマジで好みなのに他全部手に余るぜ……!」
「マジで顔面エロいもんなぁ……唇とかホクロとかたまんねぇ……けどあの人ヤバめのアホなんだよなぁ……」
「アホーッ! アーホーッ!」
復活したクラスメートたちも黒澤と共になどとブーイングをとばす。
思いもよらない行動はいつものこと。この程度のお遊びは会長様にとって日常茶飯事なのだ。
騒ぐ彼らをスルーした明菜は、よいしょと腹筋を使って起き上がり、呑気にバンジーのゴムを足から外し始めた。
明菜 弥生。
誰になにを言われようが自分を貫く、男前とオレ様をチャンポンしてアホで割り方向性を迷子にした残念な生徒代表。
「ンッンー」
「バッ……!? テメェ明菜ァッ! こんなとこで外すんじゃねぇッ!」
「いやすまんな。もう少しで外れる。だから黒澤……今度は本当に、受け止めてくれ」
「えッ? はッ!?」
そんな想い人を下から血走った目で制止し鬼の形相で叱り飛ばしていた黒澤だが、時すでに遅し。
真剣味のない声音でニマニマと黒猫のような笑みを浮かべる明菜に驚いたのもつかの間──明菜は持っていたゴムをあっさりと離した。
高さは三メートルほど。
フワリと宙を舞う想い人。
驚愕に見開く視界に影が差し、スローモーションで近づくボディ。
されどいきなりバンジーの衝撃も冷めやらぬ黒澤に、スタイル抜群の高身長男子高校生を華麗に受け止めることなど不可能に近く。
「むぎゃッ!」
避けようとした身を引いた体勢にモロダイレクトプレスを食らった黒澤は、なすすべもなく無惨に潰れた。
仰け反ったところで腹辺りを抉られ、そのまま仰向けにバタンッ! と倒れる黒澤。
いかなヤンキー組のボスだろうが、決して華奢な少年ではなくどちらかと言わなくともガッツリ筋肉もある男を抱きとめられるほどスーパーではない。
それでも明菜を地面と激突させず、クッションに徹した男気は見上げたものだろう。
愛のなせる技だ。その愛が重すぎて潰れたのだが結果オーライである。
ミッションコンプリートした黒澤は、クラスメートたちがあ、と思った時には既に意識を遥か彼方へエスケープジャーニー。
明菜は頭に衝撃があり、軽い目眩を起こしてまだ気づいていない。
クラスメートたちは、このカオスに立ち向かう勇気などなかった。
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