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水を飲み、唇を舐める。
ムス、と不貞腐れてガツガツとオムライスを掻き込んでいる黒澤を眺めて、ちょうどよい間を待つ。
そんな二人にワクワクと期待を寄せる漫研部員と親衛隊及び舎弟組。
一般生徒は二人を囲むシンパたちによって近くには少ない。秘密の花園だ。
「じゃあ、手」
「あ? ん」
雑に差し出された手をごく自然にどこぞのプリンスのような手つきで取った明菜は、その手を口元に寄せる。
「ん」
「!?」
そして躊躇なく──ぱくん、と黒澤の指を口の中に迎えた。
ザワッ! と揺れるギャラリー。
「指舐めキタコレッ! 顔エッロォ……! こりゃあ会長攻めフラグです?」
「あっいかん。生不良受けはオレの心が沸き散らかす。マジしんどい。軽率に性癖がご臨終あそばせるわ……」
「いーえ? 部長は逆カプ地雷ですのであれは自由人誘い受け会長。実は未来予知できますし? 新刊の表記は確定ですね。やったぜ俺氏」
「出たな普段温厚な部長が逆カプ地雷だけは許さない発作」
「いやでも流石にアレは逆転不可でしょう? 指舐め赤面とかコテコテのヤンキー受けですよ? 会長ああ見えてオラオラだしエロ顔だしド攻めで決定ですって。現実を見てください。部長マイナー派なんです」
「嫌だ明菜弥生受けしか勝たんッ!」
「指舐め系受け拝む部長の熱意がガチで困惑」
目を見開く漫研部メンバーたちは拳を握って心に録画し、彼らをネタにした新刊の方向性を固める。
「あっ兄貴! ダメだ、兄貴には破壊力が強すぎるだろうがッ!」
「兄貴ィィ! 兄貴が微動だにしねぇ! 指を咥えられたまま硬直してる!」
「そして会長も動かねぇ! ただ咥えたまま上目遣いのコンボをキメてるぜ!」
F組生徒たちは尊敬するボスに効果抜群だ! 表記がなされている現状をウオオと沸き立ち涙ながらに実況する。
「あぁんっ明菜様! 黒澤様はツンデレボーイなのに公衆の面前で指舐めなんて大胆だわ……!」
「指をくわえる明菜様のお顔がよろしすぎる……! エロんんッ、色気がありすぎる……! 写真撮りたすぎるぅ……!」
「はぁん俺の今夜のオカズ決定ですぅ……脳に焼きつけて鮮明に思い出してご都合修正しつつ抱かれる妄想でベッドインしたい……」
「はぁぁ……僕は明菜様の明菜様を咥えたい……麗しいキノコ拝みたぁい……」
明菜親衛隊はかわいらしいタイプの男が多いのだが結局は男なので、性欲直球のコメントで盛り上がりキャッキャと黄土色の歓声を上げる。
以上、ギャラリーの反応。
時間にしてほんの数秒だが、インパクト絶大な光景だ。
「……ハッ、て、て、てめっ、なにして……っ!」
「指を舐めた」
明菜はチュ、と黒澤の指に吸いついたのち唇を離し、なんら悪びれない様子でしれっと答えた。
一応言っておくが、明菜は天然でも小悪魔系でもない。
したいからした。
それだけである。
やっぱり照れ屋じゃないかまぁかわいい気もするが、なんて考えてはいるが、黒澤の好意には気づいていないし自分の気持ちも神のみぞ知る明菜である。
「いやな。オムライスを食べるお前を見ながら考えごとをしていたんだが、俺はどうやら舐める行為が好みらしい」
「だからってお前っ、……っ」
「でも、許可を取っただろう?」
「ちょっ」
黒澤の言い分を意に介さず、楽しそうにペロペロと指を舐め続ける明菜。
黒澤を助ける者はいない。
いるのは学園一の美形がさもうまそうに男の指を舐める垂涎の光景を食い入るように鑑賞する、エロに正直なド健全男子高校生の群れだけだ。
「〜〜〜〜……っ!」
もちろんそこに含まれている黒澤は、じわじわと顔の赤面範囲を広げながら、あ、あ、と声にならない音を漏らした。
目も離せなければ見入ってしまって、抵抗なんて忘れている。
自分の指を舐める明菜を凝視し、ただ指先を震わせてされるがまま。
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